政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
気づきそうで気づかない
翌日、明花は仕事を終えてから再び実家を訪れていた。それはほかでもなく、婚姻届に秋人のサインをもらうためである。
今朝は出勤してすぐに万智から昨夜のことを根掘り葉掘り聞かれ、あまりの勢いに明花は包み隠さず報告した。
というのも、いつも遅刻ギリギリの彼女が、今日は明花よりも先に出勤するほど張り切っていたからだ。もちろん明花から話を聞くためにほかならない。
さすがにキスの話はできず、明花は話しているうちに思い出して頬が赤くなってしまったが、万智が気づかなかったのは幸いだった。
昨夜は目を閉じれば唇の感触が蘇り、動悸が収まらずに大変な夜だった。
何度来ても、雪平の家は明花を必要以上に緊張させる。
「これでいいかな?」
リビングでテーブルに向かい合った秋人は、署名したものを明花に見せた。
「うん、ありがとう。それじゃ、私はこれで失礼するね」
照美と佳乃と顔を合わせる前に帰りたい。