政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
ところがその願いは無残に散る。婚姻届をバッグに入れて立ち上がったところで、彼女たちがリビングに現れたのだ。
「誰が来たのかと思ったら明花だったのね」
「こ、こんばんは。お邪魔してます」
挨拶も抜きに刺々しく言う佳乃と、隣で顔をしかめる照美に慌てて頭を下げ、体を縮こまらせる。
「愛人の子なのに結婚相手が見つかってよかったわね」
「でもそれも雪平という名前があるからよ。そうじゃなかったら、あなたを嫁に欲しいなんて家、どこにもないでしょうから。この家に入ることを許した私に感謝しなさい」
「はい、ありがとうございます……」
投げつけられた陰湿で辛辣な言葉に小さく返す。
「ふたりともよしなさい」
秋人が制すが――。
「なによ、事実を言ったまででしょう? 普通に考えたら陰で生きていかなきゃいけない存在なんだから」