政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
「お母さんの言う通りよ、お父さん。本当なら結婚だって望めない人間なんだから。それも大企業の御曹司よ? まぁ、性格は悪いみたいだし、世間に出せないほど顔も最悪でしょうけど」
照美も佳乃も鼻を鳴らして明花を馬鹿にするのを止めない。
しかしふたりが明花を罵りたい気持ちは理解できるし、その言い分は少なからず合っているため、明花は言い返さず黙って聞いていた。
本来なら自分は、雪平の人間として認めてもらえない立場であるから。
明花を傷つけることで彼女たちの気持ちが収まるのならそれでいい。
「本当に腹立たしいったらありゃしないわ。あなたの顔を見るだけで不愉快」
「お母さん、もう行きましょ。あっちでワインでも飲んで気晴らししよう」
「そうね。この前いただいたビンテージものがあるから、それを開けましょうか」
反応のない明花を相手にするのにも飽きたのか、ひとしきり罵声を浴びせたふたりは〝フンッ〟とばかりに顔を背けてリビングを出ていった。
「明花、本当にすまない」
「平気よ、お父さん」
婚姻届を出して雪平の籍から抜ければ、もうふたりとも関わらずに生きていける。
これからは、ここから連れ出してくれた貴俊に尽くしていくだけ。たとえどんな結婚生活になろうが、彼を支えていこうと明花は心に誓った。