政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「どういうことなの、あなた」
「まさか倒産なんてことはないわよね? お父さん」


照美と佳乃が焦って食いつく。ふたりとも座ったまま身を乗り出した。


「今すぐどうというわけではないんだが……。資金難であるのは事実で、相当厳しい」
「ええっ、そんなこと私たちに言われても困るわ!」
「原材料原価の高騰が一番の要因でね。やはりその点は大手には敵わない」


木材やコンクリート、鉄材などの材料を抑えるには、大量に仕入れるのが手っ取り早い。大手が仕入れる量とは規模が違うため、中小企業ではどうしても割高になるだろう。


「人材の確保も厳しくなってる。ここ一年のうちで腕のいい職人が何人か大手に引き抜かれてるんだ。おかげで社員たちの士気も下がって……」
「それなら大手より給料を上げて引き留めたらいいのに」
「それができたら苦労はしないよ」


佳乃の言葉に秋人は深いため息をついた。悪循環に陥り、どうしたものかと悩ましいのだろう。
秋人がこの一年で痩せたのは心労のせいもあるのかもしれない。
< 9 / 281 >

この作品をシェア

pagetop