きみの雫で潤して
第24話 湊人の静かな叫び、杏菜の自由な涙
窓の外を覗くと、
赤い瓦屋根の上にすずめが2羽飛んでいた。
勉強机の上に、難しい本を重ね合わせて、
何度も同じようなプリントを何枚も
解いていく。
いつになったら、
この作業から逃げ出せるのだろうか。
鉛筆をくるくるとまわして、
顎に指をつけて、算数の問題を解く。
飽きてくると、ベッドの下に
隠していた友達から借りていた漫画本を
読んでいた。
「湊人ー!湊人ー!」
リビングから大きな声で湊人を呼んでいたのは、湊人の母 一ノ瀬 聡子だった。
「はーい。」
漫画本を慌てて、ベッドの下に隠して、
机の椅子に座る。
宿題だけじゃない
あてがわれた勉強を
サボるとこっぴどく叱られた。
勉強に関しては
ものすごく厳しい家庭だった。
階段をスリッパでのぼる音がする。
(やばい。来た。隠さなきゃ。)
湊人に自由はない。
読んでいた漫画本がもう一冊
ふとんの上に置きっぱなしだった。
慌てて、だいぶして、隠そうとしたが、
体を戻すことができなかった。
「な、何してるの?」
「え、いや、ちょっと休憩しようかなって。
頭痛くて…。」
「え?そうなの?
頭痛薬持ってくる?」
「ん?大丈夫。
すぐ休んだら、またするよ。
それより何したの?」
「これ、お父さんが用意してくれたから
渡そうと思って。
小学生におすすめの語彙力が
伸びる本だって。」
「はぁ?また本?
ていうかさ、そんなの読まなくても
今はパソコンあるでしょう。
調べたら大丈夫っしょ。」
「…なぁに?その言葉。
どこで覚えたの?
聞いたことないセリフね。
私も教えたことないわ。」
「え?そう?
テレビとかで言ってたりするよ?
友達とか…。」
「どこの友達?何のテレビ?」
探られないことを次々に聞いてくる
母の聡子に苛立ちを覚える。
「え、えっとぉ、
間違った。
読ませていただきます。
必要ですものね。
将来たくさんの人にあった時に
トーク力磨かないとって
お父さんおっしゃってましたね。」
突然、敬語を交えた話をする湊人。
母の聡子が持っていた本を受け取った。
うんうんと頷いて満足そうだった。
「ちょっと、まだ勉強中ですので
あっち行っててください。」
親子なのに、コントをしているようだ。
どうして、ここまで丁寧な言葉で
話さないといけないのか。
気疲れが半端ない。
湊人は、母の聡子の背中を押して、
バタンとドアを閉めた。
いつからだろう、感情を押し殺して、
生活していたのは。
家でも外でも利口でなければならない。
大人しくしていなければならない。
なぜなら、湊人の父は、
優秀な大学の教授という肩書きを
持っていたからだ。
湊人が泣き叫んで、訴えていたのは、
赤ちゃんの時だけだったんじゃないと
いうくらい、両親の前で
感情を出したことがない。
素の自分を出せるのは
部屋で1人好きなことをしている時くらい
だった。
小学4年生の頃の湊人は、
自宅でバイオリン教室を経営している
母とともに将来大学生活で
困らないようにと
勉強に勤しんでいた。
時々、教室しながら、あがってくる母の
気配で緊張感が走る。
居心地が心から良いとは言えない
環境だった。
そのせいか、
湊人が路上で素直に泣ける杏菜が
羨ましく、愛しく感じた。
自分にはできないことをしているのが、
魅力的に感じた。
赤い瓦屋根の上にすずめが2羽飛んでいた。
勉強机の上に、難しい本を重ね合わせて、
何度も同じようなプリントを何枚も
解いていく。
いつになったら、
この作業から逃げ出せるのだろうか。
鉛筆をくるくるとまわして、
顎に指をつけて、算数の問題を解く。
飽きてくると、ベッドの下に
隠していた友達から借りていた漫画本を
読んでいた。
「湊人ー!湊人ー!」
リビングから大きな声で湊人を呼んでいたのは、湊人の母 一ノ瀬 聡子だった。
「はーい。」
漫画本を慌てて、ベッドの下に隠して、
机の椅子に座る。
宿題だけじゃない
あてがわれた勉強を
サボるとこっぴどく叱られた。
勉強に関しては
ものすごく厳しい家庭だった。
階段をスリッパでのぼる音がする。
(やばい。来た。隠さなきゃ。)
湊人に自由はない。
読んでいた漫画本がもう一冊
ふとんの上に置きっぱなしだった。
慌てて、だいぶして、隠そうとしたが、
体を戻すことができなかった。
「な、何してるの?」
「え、いや、ちょっと休憩しようかなって。
頭痛くて…。」
「え?そうなの?
頭痛薬持ってくる?」
「ん?大丈夫。
すぐ休んだら、またするよ。
それより何したの?」
「これ、お父さんが用意してくれたから
渡そうと思って。
小学生におすすめの語彙力が
伸びる本だって。」
「はぁ?また本?
ていうかさ、そんなの読まなくても
今はパソコンあるでしょう。
調べたら大丈夫っしょ。」
「…なぁに?その言葉。
どこで覚えたの?
聞いたことないセリフね。
私も教えたことないわ。」
「え?そう?
テレビとかで言ってたりするよ?
友達とか…。」
「どこの友達?何のテレビ?」
探られないことを次々に聞いてくる
母の聡子に苛立ちを覚える。
「え、えっとぉ、
間違った。
読ませていただきます。
必要ですものね。
将来たくさんの人にあった時に
トーク力磨かないとって
お父さんおっしゃってましたね。」
突然、敬語を交えた話をする湊人。
母の聡子が持っていた本を受け取った。
うんうんと頷いて満足そうだった。
「ちょっと、まだ勉強中ですので
あっち行っててください。」
親子なのに、コントをしているようだ。
どうして、ここまで丁寧な言葉で
話さないといけないのか。
気疲れが半端ない。
湊人は、母の聡子の背中を押して、
バタンとドアを閉めた。
いつからだろう、感情を押し殺して、
生活していたのは。
家でも外でも利口でなければならない。
大人しくしていなければならない。
なぜなら、湊人の父は、
優秀な大学の教授という肩書きを
持っていたからだ。
湊人が泣き叫んで、訴えていたのは、
赤ちゃんの時だけだったんじゃないと
いうくらい、両親の前で
感情を出したことがない。
素の自分を出せるのは
部屋で1人好きなことをしている時くらい
だった。
小学4年生の頃の湊人は、
自宅でバイオリン教室を経営している
母とともに将来大学生活で
困らないようにと
勉強に勤しんでいた。
時々、教室しながら、あがってくる母の
気配で緊張感が走る。
居心地が心から良いとは言えない
環境だった。
そのせいか、
湊人が路上で素直に泣ける杏菜が
羨ましく、愛しく感じた。
自分にはできないことをしているのが、
魅力的に感じた。