きみの雫で潤して
第33話 壊れゆく絆
「ただいま。」
午後10時の玄関で、
湊人は体がボロボロのまま、
フラフラと部屋の中に入った。
ソファに身を委ねて、
目を手のひらで塞いだ。
部屋から杏菜が出てきた。
シャンプーの香りが漂っている。
「おかえり。
今、帰ってきたんだね。」
「杏菜、風呂は?
もう入ったの?」
「え、うん。
堀込さんにお風呂入れてもらったよ。」
「なんで?」
「え、なんでって別にいいじゃん。」
「風呂は頼んだことなかったよな。」
「……一緒に入りたかったから。」
「ふーん。」
湊人は、機嫌悪そうに
起き上がって、
台所の冷蔵庫から
ペットボトルの炭酸水を
コップに注いで
ごくごく飲み始めた。
「別にルームシェアだし、
干渉はしないけどさ。
そういうの連絡もらってもいい?
俺だって、疲れてても風呂入れるって
思って帰って来てるからさ。
一日の流れあるし。」
「子供じゃないから1人で入れるよ。」
「見えないだろ。
お湯の温度だって微調整が必要なんだよ。
一歩間違えばやけどだってするんだ。
目が見えてても蛇口にあたってゴリゴリと
肌が痛くなるのもあるし。」
「はいはい。
いつもありがとうございました!」
「なんだよ、それ。」
「どーせ、ヤキモチでしょう。」
「は? ちげぇよ。」
「どうだか。
そうやって、
体裁よくルームシェアとか言ってるけど、
監獄のようにここに住まわせて
そういうプレイじゃないかと思うわ。
自由もきかないのに…。」
持っていたガラスコップを
勢いよく割った。
イライラのオーラを杏菜に向けた。
「誰のためにやってると
思ってるんだよ!?」
思わず、言ってはいけない禁止ワードを
発したと気づいた時には遅かった。
杏菜は、その言葉を聞いて、
何も発する言葉を見つけることができず、
湊人の発するオーラが怖くなって、
体が震えた。
ガラスコップの割れた音が
耳に残っている気がした。
部屋の荷物を必死にかき集めて、
家から飛び出して行った。
ドアはバタンと閉まる。
杏菜は、大事な白杖を持っていなかった。
「……ちくしょう!!」
湊人は、食卓の椅子を蹴飛ばしたが、
蹴り飛ばした足の親指の爪が
痛くなってうずくまった。
(こんなつもりじゃなかったのに
なんで俺は余計な一言を
言ってしまったんだ……。)
教授達の会合に付き合わされて、
聞きたくもない論文自慢大会に
いかに優秀かを言い合う中間管理職。
気疲れが半端ない
媚びうって、胡麻すって、
先生と呼ばれる人々をアゲアゲして、
何が楽しいのか。
それでもこの関わりなくして、
商品化するのも難しい。
専門家たちが集うことも
大学教授だからこそできるもの。
我慢するしかない。
両者傷つかないコメントを用意して、
あっちやこっちの話を聴いて、
良い気持ちで帰ってもらおうと気使いをしていた。
その技はやはりホストの仕事が
役に立っているのかもしれない。
女性だけじゃなく、
男性も持ち上げられて、
喜ばない人はいない。
それを知ってか知らずか、
杏菜は湊人の状況を知らない。
湊人も杏菜がどんな気持ちで
日々過ごしているかも知らない。
会話不足でお互いの情報を
手に入れていない。
堀込の介入で久しぶりに会話していた。
杏菜は逆に話ができて嬉しかった。
機嫌を悪くするなんてと
がっかりしていた。
杏菜のスマホに搭載されている
AI機能を使って電話アプリを出した。
コールが続く。
真っ暗な家の外、
街灯もぼんやりとしか光っていない。
白杖もなく、手を伸ばしながら、
電話しながら、恐る恐る前を進む。
感覚がつかめず、転びそうになる。
通行人は見て見ぬふりだ。
白杖も持たずに外に出た杏菜を
湊人は、追いかけた。
息を荒くして、走り出す。
どこまで、行ってしまったのかと
心配になった。
歩きながら、
杏菜のスマホはコールが
ずっと鳴っていた。
午後10時の玄関で、
湊人は体がボロボロのまま、
フラフラと部屋の中に入った。
ソファに身を委ねて、
目を手のひらで塞いだ。
部屋から杏菜が出てきた。
シャンプーの香りが漂っている。
「おかえり。
今、帰ってきたんだね。」
「杏菜、風呂は?
もう入ったの?」
「え、うん。
堀込さんにお風呂入れてもらったよ。」
「なんで?」
「え、なんでって別にいいじゃん。」
「風呂は頼んだことなかったよな。」
「……一緒に入りたかったから。」
「ふーん。」
湊人は、機嫌悪そうに
起き上がって、
台所の冷蔵庫から
ペットボトルの炭酸水を
コップに注いで
ごくごく飲み始めた。
「別にルームシェアだし、
干渉はしないけどさ。
そういうの連絡もらってもいい?
俺だって、疲れてても風呂入れるって
思って帰って来てるからさ。
一日の流れあるし。」
「子供じゃないから1人で入れるよ。」
「見えないだろ。
お湯の温度だって微調整が必要なんだよ。
一歩間違えばやけどだってするんだ。
目が見えてても蛇口にあたってゴリゴリと
肌が痛くなるのもあるし。」
「はいはい。
いつもありがとうございました!」
「なんだよ、それ。」
「どーせ、ヤキモチでしょう。」
「は? ちげぇよ。」
「どうだか。
そうやって、
体裁よくルームシェアとか言ってるけど、
監獄のようにここに住まわせて
そういうプレイじゃないかと思うわ。
自由もきかないのに…。」
持っていたガラスコップを
勢いよく割った。
イライラのオーラを杏菜に向けた。
「誰のためにやってると
思ってるんだよ!?」
思わず、言ってはいけない禁止ワードを
発したと気づいた時には遅かった。
杏菜は、その言葉を聞いて、
何も発する言葉を見つけることができず、
湊人の発するオーラが怖くなって、
体が震えた。
ガラスコップの割れた音が
耳に残っている気がした。
部屋の荷物を必死にかき集めて、
家から飛び出して行った。
ドアはバタンと閉まる。
杏菜は、大事な白杖を持っていなかった。
「……ちくしょう!!」
湊人は、食卓の椅子を蹴飛ばしたが、
蹴り飛ばした足の親指の爪が
痛くなってうずくまった。
(こんなつもりじゃなかったのに
なんで俺は余計な一言を
言ってしまったんだ……。)
教授達の会合に付き合わされて、
聞きたくもない論文自慢大会に
いかに優秀かを言い合う中間管理職。
気疲れが半端ない
媚びうって、胡麻すって、
先生と呼ばれる人々をアゲアゲして、
何が楽しいのか。
それでもこの関わりなくして、
商品化するのも難しい。
専門家たちが集うことも
大学教授だからこそできるもの。
我慢するしかない。
両者傷つかないコメントを用意して、
あっちやこっちの話を聴いて、
良い気持ちで帰ってもらおうと気使いをしていた。
その技はやはりホストの仕事が
役に立っているのかもしれない。
女性だけじゃなく、
男性も持ち上げられて、
喜ばない人はいない。
それを知ってか知らずか、
杏菜は湊人の状況を知らない。
湊人も杏菜がどんな気持ちで
日々過ごしているかも知らない。
会話不足でお互いの情報を
手に入れていない。
堀込の介入で久しぶりに会話していた。
杏菜は逆に話ができて嬉しかった。
機嫌を悪くするなんてと
がっかりしていた。
杏菜のスマホに搭載されている
AI機能を使って電話アプリを出した。
コールが続く。
真っ暗な家の外、
街灯もぼんやりとしか光っていない。
白杖もなく、手を伸ばしながら、
電話しながら、恐る恐る前を進む。
感覚がつかめず、転びそうになる。
通行人は見て見ぬふりだ。
白杖も持たずに外に出た杏菜を
湊人は、追いかけた。
息を荒くして、走り出す。
どこまで、行ってしまったのかと
心配になった。
歩きながら、
杏菜のスマホはコールが
ずっと鳴っていた。