きみの雫で潤して
第50話 人間の複雑さ
真っ白な天井にコーヒーの香り
部屋に広がっている。
ふわふわのソファの上に寝転んで、株価情報が載った雑誌をペラペラとめくった。何度見ても、株価を追いかけて、投資家を続けるなんて難しいよなぁと湊人は、ため息をついてテーブルに雑誌を置いた。
「それで、どうする?
映画って今何やっていたっけ。
……って、湊人?!
勝手に人の部屋入ってきて
不法侵入だよ?!
理解してる?」
ここは、前にホストクラブで
かなりお金をかけてくれたミカの家。
ミカは寝室で彼氏のゆうと一緒に
ラブラブで濃密な時間を過ごしていた。
湊人は何度もインターフォンを
鳴らしたが、誰も出ず、たまたま
鍵が開いていたため、
中に入って、ソファで待とうと
くつろいでいた。
「俺は、インターフォン鳴らしたし、
鍵は開いてたし!!
邪魔はしてないだろ?」
「はぁ?!
良いわけないでしょう。」
「……そんなこと言っていいのかよ。
お前には借りがたくさん…。」
「あ、ああ、あーーー。
わかりました。
それ以上は言わないで。
うん。はい。
理解しましょう。
確かにラブラブな時間に侵入してきたら、
刃物が飛び交っていたかもしれないね。
うん。そう……。」
ミカは前言撤回して、興奮状態を
落ち着かせようと必死だった。
横にいたゆうは訳が分からず、
疑問符を浮かべていた。
「それで?
私に一体何の用事だって言うの?」
台所に向かって、
コップに浄水器の水を注いで
ごくんと飲んだ。
冷静に話すようにと自分に言い聞かせた。
借りがあるからって何でも許されるわけ
じゃないと鼻息を荒くする。
「株、まだ買ってるんだろ?」
「ええ、まぁ。そうね。
投資家ですから。」
「投資家っていうことで
お願いしたいことがあって来た。
少しでもボランティア精神という
気持ちがあるのなら、
俺の作ってる家電
SEE GLASSESのクラウドファンディングに
募金をして欲しいんだ。
初期モデルの型を作ることができたが、
あくまでそれは試作品で商品化に
させるにはもっと開発費用と
商品製造資金が必要だ。
まだまだサイズが大きいし
半導体を小さくされる技術や、
大量生産をするには巨額の費用が必要だ。
協力してくれるよな。」
「…費用がたくさん必要だということは
わかったわ。
でも、それは杏菜ちゃんの
視力回復が目的なの?」
「いや、違う。
日本中、いや世界中の盲目の人を
救うためのビックプロジェクトだ。
成功をすれば見返りが必ずある。
恩恵を受けるはずだ。損はしない。」
「私はお金の話をしてない。」
「……え?」
「私に借りがあるっていう話を
まるっきりの白紙に戻すには、
1番に杏菜ちゃんが見えないと
始まらないの。
私の手で見えなくなってしまったのを
警察に届けを出さなくていいって
やってくれたのは嬉しいけど、
借りだと言って、恐喝されるのはいや。
そうなるんだから捕まって、
償った方がいいわ。
そもそも募金もいいけど、
杏菜ちゃんの目が第一優先でしょう。
さっきからビジネスの話ばかり。
湊人、杏菜ちゃんのことは
大事じゃないの?」
「……やりたくないならいいんだ。」
「そうやって、何から逃げてるの?」
「……。」
「本当は好きなくせに
自分で認めないからでしょう。
体だって迫られても、
ガードめっちゃかたいし。
童貞じゃないって意地張ってるけど、
湊人本当は誰とも寝たことないんだよ。
ゆう、どう思う?
それで、ホストクラブ2位を
陣とってたんだよ。すごくない?」
ミカはソファでさきいかをむさぼるゆうに
話しかける。
湊人は何も言えなくなって、背を向けた。
「へぇ、珍しいね。
プラトニックってこと?
古風な感じ。」
「何を守っているんだか。
純粋なんだかわからないけどさ。
湊人って、考えるところよくわからない。
本当は、ここに来るのも
お金とかビジネスじゃなくて、
見捨てられそうだから
私に構ってほしかったんでしょう。」
湊人は後ろ向きのまま、
胸に矢を放ったように図星を
言い当てられた。
どこか素直になったら負けと思っている。
変な考えをしていた。
「……もういいよ。
お邪魔しましたぁ。」
湊人は近くにあった
テーブルの端っこに足をぶつけて
悶絶したが、すぐに立ち直って
玄関のドアを開けて出て行った。
「ゆうくん。
うちらはそうじゃないもんね。
素直に愛情表現するもんねぇ。」
「え、そうかな。
裏では違う子のこと考えてるかもよ?」
「!?
うそうそ。うそ。
彼女は私だけってあれ、嘘だったの?」
「…嘘に決まってるだろ。
すぐ間に受けるんだから。」
ゆうはミカの腰に手を回して、
ぎゅっと抱きしめた。
「でもさ、さっきの
ビックプロジェクトの話。
注目浴びそうだよね。
応援しようかなって思った。」
「うん。それはね。
調べておこうかな。
てか、湊人って大学の研究だから
会社に勤めてるわけじゃないんだよね。
自分にお金回ってこないのに
徳積んでるんだろうな。」
ミカはそういう湊人の考え方に
感心していた。
湊人はポケットからタバコを1本取り出して、カチッとライターで火をつけた。ふーっと大きなため息をついて、天を仰いだ。
ルームシェアだと言い切ったあと、
訂正するのは面倒になる。
恥ずかしいという気持ちの方が
優っていたのかもしれない。
気持ちの整理をしたいと
杏菜は家を出て行った。
迎えに行ってもきっとすぐには
帰ってこない状態だろう。
寂しさが増して、
ミカのところにやってきたが、
心の埋め合わせになんて
何ものにもならなかった。
部屋に広がっている。
ふわふわのソファの上に寝転んで、株価情報が載った雑誌をペラペラとめくった。何度見ても、株価を追いかけて、投資家を続けるなんて難しいよなぁと湊人は、ため息をついてテーブルに雑誌を置いた。
「それで、どうする?
映画って今何やっていたっけ。
……って、湊人?!
勝手に人の部屋入ってきて
不法侵入だよ?!
理解してる?」
ここは、前にホストクラブで
かなりお金をかけてくれたミカの家。
ミカは寝室で彼氏のゆうと一緒に
ラブラブで濃密な時間を過ごしていた。
湊人は何度もインターフォンを
鳴らしたが、誰も出ず、たまたま
鍵が開いていたため、
中に入って、ソファで待とうと
くつろいでいた。
「俺は、インターフォン鳴らしたし、
鍵は開いてたし!!
邪魔はしてないだろ?」
「はぁ?!
良いわけないでしょう。」
「……そんなこと言っていいのかよ。
お前には借りがたくさん…。」
「あ、ああ、あーーー。
わかりました。
それ以上は言わないで。
うん。はい。
理解しましょう。
確かにラブラブな時間に侵入してきたら、
刃物が飛び交っていたかもしれないね。
うん。そう……。」
ミカは前言撤回して、興奮状態を
落ち着かせようと必死だった。
横にいたゆうは訳が分からず、
疑問符を浮かべていた。
「それで?
私に一体何の用事だって言うの?」
台所に向かって、
コップに浄水器の水を注いで
ごくんと飲んだ。
冷静に話すようにと自分に言い聞かせた。
借りがあるからって何でも許されるわけ
じゃないと鼻息を荒くする。
「株、まだ買ってるんだろ?」
「ええ、まぁ。そうね。
投資家ですから。」
「投資家っていうことで
お願いしたいことがあって来た。
少しでもボランティア精神という
気持ちがあるのなら、
俺の作ってる家電
SEE GLASSESのクラウドファンディングに
募金をして欲しいんだ。
初期モデルの型を作ることができたが、
あくまでそれは試作品で商品化に
させるにはもっと開発費用と
商品製造資金が必要だ。
まだまだサイズが大きいし
半導体を小さくされる技術や、
大量生産をするには巨額の費用が必要だ。
協力してくれるよな。」
「…費用がたくさん必要だということは
わかったわ。
でも、それは杏菜ちゃんの
視力回復が目的なの?」
「いや、違う。
日本中、いや世界中の盲目の人を
救うためのビックプロジェクトだ。
成功をすれば見返りが必ずある。
恩恵を受けるはずだ。損はしない。」
「私はお金の話をしてない。」
「……え?」
「私に借りがあるっていう話を
まるっきりの白紙に戻すには、
1番に杏菜ちゃんが見えないと
始まらないの。
私の手で見えなくなってしまったのを
警察に届けを出さなくていいって
やってくれたのは嬉しいけど、
借りだと言って、恐喝されるのはいや。
そうなるんだから捕まって、
償った方がいいわ。
そもそも募金もいいけど、
杏菜ちゃんの目が第一優先でしょう。
さっきからビジネスの話ばかり。
湊人、杏菜ちゃんのことは
大事じゃないの?」
「……やりたくないならいいんだ。」
「そうやって、何から逃げてるの?」
「……。」
「本当は好きなくせに
自分で認めないからでしょう。
体だって迫られても、
ガードめっちゃかたいし。
童貞じゃないって意地張ってるけど、
湊人本当は誰とも寝たことないんだよ。
ゆう、どう思う?
それで、ホストクラブ2位を
陣とってたんだよ。すごくない?」
ミカはソファでさきいかをむさぼるゆうに
話しかける。
湊人は何も言えなくなって、背を向けた。
「へぇ、珍しいね。
プラトニックってこと?
古風な感じ。」
「何を守っているんだか。
純粋なんだかわからないけどさ。
湊人って、考えるところよくわからない。
本当は、ここに来るのも
お金とかビジネスじゃなくて、
見捨てられそうだから
私に構ってほしかったんでしょう。」
湊人は後ろ向きのまま、
胸に矢を放ったように図星を
言い当てられた。
どこか素直になったら負けと思っている。
変な考えをしていた。
「……もういいよ。
お邪魔しましたぁ。」
湊人は近くにあった
テーブルの端っこに足をぶつけて
悶絶したが、すぐに立ち直って
玄関のドアを開けて出て行った。
「ゆうくん。
うちらはそうじゃないもんね。
素直に愛情表現するもんねぇ。」
「え、そうかな。
裏では違う子のこと考えてるかもよ?」
「!?
うそうそ。うそ。
彼女は私だけってあれ、嘘だったの?」
「…嘘に決まってるだろ。
すぐ間に受けるんだから。」
ゆうはミカの腰に手を回して、
ぎゅっと抱きしめた。
「でもさ、さっきの
ビックプロジェクトの話。
注目浴びそうだよね。
応援しようかなって思った。」
「うん。それはね。
調べておこうかな。
てか、湊人って大学の研究だから
会社に勤めてるわけじゃないんだよね。
自分にお金回ってこないのに
徳積んでるんだろうな。」
ミカはそういう湊人の考え方に
感心していた。
湊人はポケットからタバコを1本取り出して、カチッとライターで火をつけた。ふーっと大きなため息をついて、天を仰いだ。
ルームシェアだと言い切ったあと、
訂正するのは面倒になる。
恥ずかしいという気持ちの方が
優っていたのかもしれない。
気持ちの整理をしたいと
杏菜は家を出て行った。
迎えに行ってもきっとすぐには
帰ってこない状態だろう。
寂しさが増して、
ミカのところにやってきたが、
心の埋め合わせになんて
何ものにもならなかった。