嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

オルフレット

 公爵家からの屋敷からの帰り、僕は鼻歌を歌い上機嫌だった。王城に帰るのも、少しだけ苦ではなくなった。

(ロレッテはいつも可愛い。時間の許す限りロレッテと過ごせて幸せだ。ロレッテの優しげな瞳、声……もに癒された)

 明日学園で会うのが楽しみだ。

 
 
 しかし、メアリス嬢をどうするかだな。入学当初、僕がメアリス嬢に何かしら惹かれ、近寄りすぎたせいでもある。

『オルフレット殿下、お気をつけてください』

 散々、カウサに忠告を受けていたが、聞かなかったボクに責任はあるが。王子の僕に、ほかの者はおいそれと話しかけてはこない。今は学生だからと伝えても、他のものはなにかしら距離を取る。

 それは僕の、この見た目のせいでもある。

 常に王族として落ち着き、他の者に弱みなども見せないからだろう。だが、弱みは自分の足を引っ張るし、僕一人だけの責任で抑えきれない事が起こる。

 愛しいロレッテ嬢とて子供の頃とは違い、僕とは一線置いて接していた。だが、メアリス嬢はその一線を超えて、僕の中にはいって来た。

『あ、オルフレット様だ』と。

 淑女としての礼儀もなく、フレンドリーな会話。王族として、周りの厳しい視線の中で生きて来た僕は、それを新鮮だと感じてしまったのだ。

 その緩みが、愛しいロレッテ嬢を傷付けた。

『オルフレット殿下は、私に構わないでください!』

 彼女の側に行くことを許されず、傷付いた瞳、冷たく言い放たれた言葉は僕を更に冷静にさせた。だが遅かった……手遅れだった。

 次に彼女の口から出た言葉は。

『オルフレット殿下との婚約破棄を願います』

 弁明もできず、手詰まりの状態。いくら自分の心を伝えようとしても、ロレッテ嬢に跳ね返された。

(僕はロレッテだけが好きなんだ)

 この気持ちは2度と伝わらない。

 書庫へと向かう廊下で彼女に冷たくあしらわれて、ロレッテ嬢とはこれで終わったのだと絶望した。

 僕から去りゆく、ロレッテ嬢の後ろ姿を眺めていた。その彼女の足が止まり、優しげな瞳を開き、こちらを振り向いた。

 このとき、何故だがわからないが僕に奇跡が起きる。彼女と言葉を重ね、お茶の誘いに乗ったてくれた。
 
 ほんとうに嬉しくて、僕は涙をこらえた。


 そして、今日もまた幸せな日が訪れた。

「ハァ。可愛かったなぁロレッテ嬢……」

 僕が想うのは、メアリス嬢ではない。
 だが、皇太子の兄上が……メアリス嬢の姉上にうつつを抜かしている今、この縁は切れないのだがな。


 
「ふわぁ……」

 僕の足元で眠っていた、真っ白な子犬が目を覚ます。ロレッテ嬢の所にいた子犬君だ。

「オルフレット、冷気が漏れてる。また、ロレッテのこと考えてるな? ……いいことだけど落ち着いて」

「はい、分かっています」
「どうだか? フワフワで柔らかくて、いい香りのロレッテ」

「⁉︎」

「ハハ、また少し冷気が増した」
「試したのですか? シルベスター兄さん!」

「常に鍛錬だよ」
「ううっ、頑張ります」
 
 意地悪な彼は僕の魔法使いの師匠の一番弟子で、凶暴と言われ恐れられている――フェンリルだ。

「今回は助かったよ、兄さん」
「師匠に頼まれたのもあるが。可愛いボクの弟が泣くからね……クク」
 
「……シルベスター兄さん!」
「そうふくれるない。愛しの、ロレッテが今の姿を見たら驚いちゃうよ」

「うっ」
「ハハ、あの子なら……どんなオルフレットを見ても、きっと大丈夫だよ」

「……兄さん」

 意地悪で、優しい僕の兄さんだ。
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