嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

2

 学園で倒れた翌日。両親が呼んだ医者に後頭部にできたコブの治療してもらったが。胸の痛みは治らず、どうして学園で倒れたのかも、ロレッテは思い出せずにいた。

「ロレッテは何も心配せず、ゆっくり寝ていなさい」

 と、お父様は言うけど。寝ているばかりは暇なので、本を取りに屋敷の書庫に向かった。書庫に向かう途中、メイド達が清掃のために開けた窓から、春の心地よい風と花の香りをロレッテへ届けた。

(天気がいいから庭を散歩して、テラスで読書するのも良さそう)


 ――そうだ。
 
 あの日も庭園に咲く花々を眺めらながら、学園の別棟に続く渡り廊下を歩いていた。

(どうして、そこに私はそこにいたの?)
 
 確かあの日は、オルフレット様に用事があると伝えられて、お昼休みを一人で過ごしていた。お昼休みの終わり頃、書庫で借りていた本の返却の期日が本日までだったと気付き、急いで別棟の書庫へとロレッテは急いで向かった。
 
 ロレッテが通う貴族科は爵位の高い貴族ばかりで、書庫で本を借りて無くしても、買って返せばいいと考えている人ばかり。

 だから書庫員に期日までに本を返さないと、罰で1ヶ月本を貸し出ししてもらえなくなる。家の書庫の本はほとんど読んでしまったし。それなら王妃教育の空いた時間に、王城の書庫で読めばいいと、簡単なことも言えない。
 
 王城の書庫には国の機密文書、持ち出し禁止の魔導書などが保管されている。だから書庫に入るには国王陛下、王妃、王子達の許可を取らなくてはならない。許可を貰って書庫に入っても周りの目があり、落ち着いて読書できないだろう。

 その点学、学園の書庫は種類も揃い、落ち着いて読める。何より、1人になりたいときによく利用もしている。だから、学園の書庫が1ヶ月も利用できなくなるのは、ロレッテにとって死活問題だった。

(早く本を返さないと……)

 渡り廊下から見える庭園で婚約者のオルフレット様と、いま噂のメアリスさんが仲睦まじく抱き合っている姿がみえた。その2人の姿は他の生徒も見えていたらしく、喜びの声をあげ手を叩くもの、茶化す人たちの騒ぐ声が聞こえた。

(なぜ? オルフレット様はその子を抱きしめているの?)

 その光景に目が離せず、ズキズキと胸に走る痛み。
 ロレッテの手と足が徐々に冷えて震えて、持っていた本はバサバサと下に落ち、吐く息と鼓動だけが早くなる。最後にロレッテがみえのは――曇りなき青空だった。




「……っ」

 目を覚ますと、ロレッテは自分のベッドで寝ていた。

(……そう、そうだったのね。すべて思い出したわ。心から、お慕いしているオルフレット様に好きな人ができてしまった……あ、ああ、悲しくて、ツラくて胸が張り裂けそう)

 人々に氷の王子と呼ばれて、周りにも自分にも厳しく、普段から表情の変わらないオルフレット様……ううん、オルフレット殿下。学園に入学してから、噂のメアリスさんといるとき、彼は笑みを浮かべるようになった。

(なぜ、あの子をそんな瞳で見つめるの? なぜ、私を見つめてくださらない? 私を見て微笑んでよ!! 私、このままじゃ……愛する、オルフレット殿下に婚約破棄されしまう)

「い、いやぁ――!!!」
 
 書庫へと繋がる屋敷の廊下で、ロレッテは頭を抱えて泣き叫んだ。付近で掃除をしていたメイド達は慌てて駆け寄り。ちょうど戻ってらしていたのか、お父様とお母様が悲痛なロレッテの叫び声を聞いてやって来て。廊下で泣き叫ぶロレッテに手を伸ばし、胸へと抱きしめた。
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