嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

21

〈まずったな……〉
(…………)

 書庫に着いて数分後。オルフレット様とロレッテは困っていた。誰もいない別棟にある、ロレッテがよく通う書庫が、恋人達の穴場だとは知らなかった。

「あっ……ダメッ、んんっ!」

 ガタ、ガタと机のしなる音と、布の擦れる音が響いている。

 彼らがくる前、ロレッテとオルフレット様は奥の本棚に行き、ロレッテが普段から読む恋愛物の本を並んで探していた。そこに彼らが来て「ちゅっ」とリップ音が聞こえ、悩ましげな吐息が聞こえた途端、オルフレット様に「聞くな」とロレッテは耳を塞がれた。

〈……クソッ、僕はまだ遮音魔法が使えない〉

「オル…………」
「シッ、ロレッテ嬢いまは静かに」

 オルフレット様が困ったような表情を浮かべ、ロレッテの唇に人差し指をあてた。
 
〈うおっ、柔らか……じゃない。まずい、非常にまずい……入り口から見えにくい奥の本棚にいたせいだ。だからあの人達に気付くのが遅れた……〉

 オルフレット様に耳を塞がれたロレッテは、焦るオルフレット様の心の声を静かに聞いていた。

〈魔法を使い誰かこの場にカウサか近衛騎士を呼ぶか? あ、しまった……いま、カウサがいないうえに、近衛騎士に校舎の外で待つ様に指示した。……ハァ、まさか学園の書庫で始めるとは……〉

(は、始めた? ……え、まさかここで?)

 このまま、ここから出て行けない。オルフレット様にこれからどうします? と、彼に下から視線を向けた。そのロレッテの行動で眉を潜めて、かなり慌てた様子。

〈ロレッテ、その表情はまずい、まずい……僕の気持ちと、魔力が……〉

(オルフレット様の気持ち? 魔力?)

 ひんやりした冷気が頬に触れた……これって、オルフレット様からだ。これでは、ここに居るのがバレてしまうと思ったロレッテ。

 ――しかし彼らは。

「なんだ? ……少し、ひんやりしてきたな……場所を移すか?」
 
「えぇ、……でも、この高まった熱だけおさめてくださいませ」

「そうだな――」

〈……移動しないのか! ……ロレッテの耳を塞いでいるが、聞こえていないよな。まったく、今日がいくら自由だからといって……〉
 
(……塞がれていますが、微かに聞こえています。でも、オルフレット様とのこの距離と体温、鼓動が早くてドキドキの方が……大きい)

〈早く終わってくれ、でないと……僕は……!!〉

 オルフレット様の心の声より、先にあちらが静かになり。

「この後、サロンに行かないか?」
「ええ、ご一緒しますわ」
 
 と、書庫から出ていく音が聞こえた。

 どうやら彼らは学園にある、談話室に向かったみたいだ。

〈行ったか? ロレッテが通う、書庫が穴場だったとはな……また別の人達が来ては困る。ボクも密着していてはロレッテの色香にあてられてしまう。ボクが動けなくなる前に書庫を出なくては……その前にクリーンの魔法をかけて〉

(クリーン? それって、体や部屋を綺麗にする魔法だわ)

 オルフレット様が放った、クリーンの魔法が書庫に降り注ぎ書庫を綺麗にした。

〈これで、出ても大丈夫だな……魔力もどうにかおさまった〉

「ロレッテ嬢、書庫を出てテラスに行こう」

 返事を返す前に、焦るオルフレット様に手を引かれて、テラスへと向かった。着いたテラスとはいつもとは違い、ビュッフェスタイルで料理がテーブルに並んでいた。

 各々、学生達は好きな料理をお皿に取り、テラスや庭園でいただけるようだ。まだ昼食前だからか、それもとダンスホールにいるのか、庭園とテラスにいる学生はまばらだった。
 
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