嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

23

〈……チッ〉
(オルフレット様がイライラしてらっしゃる)

 バラに囲まれた庭園に現れた男性は――オルフレット様と同じく近衛騎士が付いていた。彼は連れてきた、近衛騎士達に手をあげ。

「ここから先は着いてこなくていい、離れて待っていて」
「はい、かしこまりました」

 慣れた手つきで騎士達に命令すると、オルフレット様の眉間にシワが一瞬よる。

〈……仕方がない。ボクの近衛騎士では奴を止められない。本当だったんだな、少し前にカウサから聞いていたが……この学園に転入したのか〉

(オルフレット様の近衛騎士が止められない程のお相手――同等の位の方。だとしたら……オルフレット様と参加した舞踏会などで、この男性にお会いしているはずなのだけど……思い出せないわ)

 オルフレット様の白銀の髪色とは違い、金髪の髪とエメラルド色の瞳――笑うと彼の瞳が弧を描く。

「お久しぶりです、こちらに来ていたのですね」

 オルフレット様は笑みを浮かべて席から立ち上がり、挨拶と彼に礼をした。ロレッテも立ち上がろうとしたのだけど、オルフレット様に合図でいいと止められる。

「ほんとうに、久しぶりだね。国が色々とゴタゴタ続きで、さすがに疲れたよ。オルフレットの所はどうだい?」

 国のゴタゴタ、オルフレット様を呼び捨てにするほど、仲の良い方――マ、マズイです。失礼のない様にしなくてはならないのに……誰なのかわからない。

 ロレッテは表情に出さないよう、懸命に昔の記憶を探っていた。いつもと私の様子が違ったのか、オルフレット様が気が付いた。

〈ロレッテ? もしかして、奴が誰だか分からなくて焦っている?〉

(えぇ、非常に焦って困っております。いくら思い出そうとしても、彼がどなたなのか思い出せませんわ)
 
 相当焦りが表情に出てしまったのか、オルフレット様はふっと笑い、助け舟を出してくださった。

「セルバン、ボクの所は良くも悪くもなく普通さ」

(セルバン様? セルバン様……確か隣国ローリゲスの第一王子のセルバン殿下だ。確か、お会いしたのは一度だけ、オルフレット様の12歳の誕生日の舞踏会)
 
「ほほう、何事も無く普通かそれはいい事だ。ロレッテ嬢は3年、いや4年のオルフレットの誕生日だったかな? 会わないうちに益々、綺麗になったね」

「あ、ありがたく存じます。セルバン殿下」

 微笑んで、私も立ち上がり会釈をした。

「ロレッテ嬢、殿下はよしてくれよ。僕と君の仲なんだからさ」

 はい?

「私との、仲ですか?」

 驚くロレッテにセルバン殿下は微笑んで近寄り、手を取ると甲にキスをおとす。そのとき彼と瞳が合い、ニヤリと笑ったセルバン殿下に背筋がぞくりとした。

「あぁロレッテ嬢、君はなんて美しいんだ」

(ひゃっ)

 次に、セルバン殿下はロレッテの髪に触れて、自分の方へと引き寄せようとした。その腕を、オルフレット様が掴み引き剥がした。
 
〈僕のロレッテに触るな!〉
 
「そこまでにしろセルバン! 君は忘れてしまったのかい? ロレッテ嬢は私の婚約者だよ」

 オルフレット様は微笑んで返すと、セルバン殿下も微笑む。まるで彼は悪気がないような表情を浮かべた。

「そうでしたね、いや、私とした事がうっかり忘れていたよ。――ではお断りを入れましょう。オルフレット、君の婚約者のロレッテ嬢をダンスに誘ってもいいかな?」

「ロレッテ嬢とダンス?」
 
〈今度はロレッテとダンスを踊りたいだと? セルバンは一目見て、ロレッテを気にいったからな。……いくら、ボクの婚約者だと言っても引き下がらない〉

(セルバン殿下とは踊りたくないです。私もダンスならオルフレット様と踊りたい)

 彼は、とぼけた風に。

「あれっ? 今日はこの学園の交流会だと聞いているのだが、ロレッテ嬢とのダンスはだめかな?」

〈ダメだセルバン、君にロレッテは触れさせない。ロレッテに触れていいのも、色々するのもボクだけだ〉

 オルフレット様は背筋を伸ばして、胸に手を当て頭を下げた、セルバン君は引き下がれと。

「すまないセルバン。いまはロレッテ嬢はボクと食事中だ。それにロレッテ嬢はボクとズッとダンスを踊る予定だ」

 セルバン殿下は小さく舌打ちして。

「ふっ、独占欲が強いな……それは残念だ。でも時間が出来たらよろしくね、ロレッテ嬢」

「え、えぇ……お時間がありましたら」

 セルバン殿下はロレッテに「また後で」と笑って、付近で待機していた近衛騎士を連れて下がって行った。
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