嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

24

 センバン殿下が去り、静けさを取り戻す庭園。

〈ハァ面倒事が増えた。はぁ……ボクが視察でいない間、ロレッテが危ない。これは先に何か手を打たないと〉

 オルフレット様は口元に手を当てて、考え事をされているようだ。そのお姿を静かに眺めていた、オルフレット様がフッと思い出し笑いをされて私を見た。

「しかし、ロレッテ嬢が隣国ローリゲスの王子――セルバンを忘れているとはね。まぁ、忘れたままでもいいがな」

「忘れていたというのでしょうか? セルバン殿下に失礼なのですが。一度、オルフレット様の誕生日の日にお会いしているはずなのですが……覚えておりませんでしたわ」

 そうか、と。
 オルフレット様は驚いた様子。

「この4年は彼方も忙しいみたいで、招待状を出しても断られていたが……一度、ロレッテ嬢とも会っているはずだ」

 そう、4年前のオルフレット様の誕生会。どうしてかしら? と、考えていくうちにその答えがわかった。七歳のときオルフレット様の婚約者に選ばれ、教育が始まったのですが。オルフレット様とはなぜか晩餐会、舞踏会、誕生会の年3回しかお会いできなかった。

『お父様、オルフレット様にお会いしたいです』
『会わせてやりたいが……都合がつかない』

 学園に通うようになれば、いくらでもオルフレット様にお会いできるとおっしゃっていた。

(だからオルフレット様とお会いできる日は、一週間前から衣装と髪型を決めて、毎日のようにダンスの練習や挨拶の練習を繰り返ししていた。もう胸がドキドキして眠れない日々を過ごしていわ)

 まさか――「あーっ、私」と、両手で顔を隠した。

「ロレッテ嬢?」

〈ロレッテの頬と耳、ドレスから見える肌まで赤く染まった〉

(……いやぁ、オルフレット様、今は見ないで、恥ずかしい)
 
 ロレッテは――婚約者に選ばれてからオルフレット様しか見ていなかった。4年前もそう、彼の軍服の姿しか出てこない。だから、隣国のセルバン殿下のことを覚えていなかったのだ。

 ――これはマズイ。子供の頃は許されたかもしれませんが、淑女として挨拶できていたかしら?
 
〈ロレッテが、どんどん赤くなっていく……どこか調子でも悪いのか?〉

「ロレッテ嬢、体の調子が悪いのなら医務室に行くか?」

「大丈夫です、体調は悪くありません。ち、違うのです……私、公爵の娘として、オルフレット様の婚約者として、恥ずかしい行いをしておりませんでしたか?」

 覆っていた手を外し顔を上げ、オルフレット様を見つめた。

〈ど、ど、どうした? センバンに普通に挨拶をしていたが? ロレッテがこうも真っ赤になる理由とは……まさか、あいつの名前を忘れるほど鼓動を高ぶらせ、奴に一目惚れをしだからか?〉

(それは違いますわ)

「教えてくださいませ。私はオルフレット様の婚約者として、しっかりできていましたか?」
 
「ああ、ロレッテ嬢は完璧だったよ。でもどうして、そんなに真っ赤なんだい?」

「……オ、オルフレット様、いまから私が申し上げますことに引かないで、最後まで聞いてくださいますか?」

「ああ、話してみなさい」
〈ロレッテがボクに言うことは、どんな事があろうとも、全て受け止める〉

「わ、私がセルバン殿下を覚えてなかったのは、オルフレット様ばかり見ていたからです」
 
「え、ボク?」

〈ロレッテが私ばかりを見ていた?〉

(そうです)

「だって、オルフレット様はいつも素敵なんです。お会いすると心を奪われて、あなた様しか見えておりませんでしたの……恥ずかしいですわ。王城でこっそり見てもおりました」

 この告白の後、ガタッとオルフレット様が椅子から崩れ落ちる姿が見えた。

「オ、オルフレット様⁉︎」
「大丈夫だ。すまないが、少し待ってくれ」

〈ロレッテがボクしか見ていなかっただと、全く気付いていなかった。それなのにボクは一度、傷付けた……まだ魔力も安定していないが、2度とロレッテを離さない〉

 激しく、熱い、オルフレット様の声が流れてくる。

〈ボクはロレッテを守る、騎士になる〉
 
 足早に此方へと近付いたオルフレット様に手を引かれて、彼の腕の中に力強く抱きしめられた。
 
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