嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

30

 いつの間にか現れた子犬君は前よりも手入れをされていて、艶やかになった毛並みと、青いリボンを付けふっくらしていた。

「もしかして、子犬君?」

 キャン、キャン

 呼ぶと鳴いて反対側のソファーから、私の膝に飛び乗った。やっぱり、庭に来ていた子犬君だ……どうして王城にいるの? と子犬君を見つめていた。

「ロレッテ嬢、子犬君はお茶会の後……ボクの馬車に乗って、王城に来てしまったんだ」

「え、子犬君が? 馬車に乗って城に?」

「ああ、直ぐにロレッテ嬢に伝えたかったけど……色々と忙しくて今日になってしまったよ、ごめんね」

「いいえ、オルフレット様と一緒なら安心です」

 子犬君は「キャンキャン」と鳴き、ロレッテの頬をペロッと舐めた。

〈シルベ………………〉
(シルベ……?)

 オルフレット様の声を最後まで聞けず、ロレッテの瞼は重くなり眠りに落ちた。

 



 

「ロレッテ嬢? シルベスター兄さん、なぜ彼女を眠らせた?」
 
「怒るな、オルフレット! これは仕方がないんだよ。もう直ぐここにあの子が来るから、ロレッテちゃんを仮眠室に運んで」

「あの子が来る? それは本当ですか?」
「本当だよ。だから、この場に姿を現したんだ」

 今、兄が言った"奴"とはメアリス嬢の事だ……せっかくロレッテと2人きりになったというのに、邪魔をする。

「オルフレット早く、もう直ぐ来るよ。奴の魔法にも気をつけて」

「はい」

 オルフレットはシルベスター兄さんの魔法で眠った、メイド姿のロレッテを抱きかかえて、仮眠室のベッドに寝かせて執務室に戻った。
 
「教えてくれてありがとう、シルベスター兄さん」
 
「ふん。オルフレットはもう少し、感知魔法の訓練をしたほうがいいと思うよ」

 姿を消したシルベスター兄さんに頷き、ロレッテが淹れてくれた紅茶のカップを持つと、扉の外が騒がしくなる。

「なんで止めるの? あたしがオルフレットに会いたいと言っているの! オルフレットだってあたしに会いたいはず。カウサ、そこを退きなさいよ!」

 ちょうど伝えていた1時間が経ち、書庫から戻ってきたカウサとリラが彼女に会ったようだ。

「カウサ、退きなさい!」

 ハァ……いつも思うが、なぜ彼女はこうもカウサ、ロレッテに対して、高圧的な発言ばかり出来るのかがわからない。シルベスター兄さんが「奴の魔法に気をつけて」と毎回言うのは――彼女が使用する、魅了魔法を言っているのだろう。

 その魅了魔法に一度でもかかると厄介。いくら解除しても、直ぐにまたかかってしまうのが魅了魔法だ。オルフレットとカウサは師匠に習い、魅了魔法の耐性を付けていてかかりにくい。

「すみません、ここを退くことはできません。メアリス様、いましばらくお待ちください」

「うるさい! あたしの言うことを聞いて退きなさい!」

 メアリス嬢は毎回、オルフレットとカウサにも魅了魔法をかけようとしている。

 ――そう簡単に君の思う通りにはいけせないから、そろそろ諦めてほしいよ。
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