嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

32

 ――待って、どうしてドワノブに触ってもいないのに、扉が勝手に開いたの?

 ロレッテがドキドキ心拍数を上げる中。
 オルフレット様をはじめ、執務室にいるメアリスさん、カウサ様、リラ、みんなの視線がロレッテに向いていた。

 どうしましょう、と焦るロレッテ。そのロレッテが手に持つものに気付いたのか、オルフレット様の心の声が聞こえた。

〈その持ってる枕、僕のじゃないか?〉
 
(……そうです、オルフレット様の枕ですわ……ただ、2人の話の内容が気になって扉の前で聞こうとしただけなのに、扉が勝手に開いてしまうなんて……〉
 
 それに……王子の彼に命令を受けること意外で、こちらから話すことはできない。しばらく、ロレッテはみんなの注目を浴び続けることになる。

 オルフレット様の仮眠室に戻ろうと、声を出すも。

「な、なに? 田舎臭いメイドがなぜ? そこから出てくるの?」

 メアリスさんの声と、ロレッテの声は偶然にも被ってしまった。

〈田舎臭いメイド!〉
(田舎臭いメイド⁉︎)
 
 ――それだわ。

 いつもの話し方では彼女に、自分がロレッテだとばれてしまうと、ロレッテは慌てて頭を下げ。

「あ、すっ、すみません……わたし、か、仮眠室のベッドメーキングがおわりました……えーっと、オルフレット殿下のお客様でしょうか?」

 おづおづ話す。

「そんなの、見ればわかるでしょう!」
「ああ、すみません。わたし慣れていなくて……す、すみません」

〈ククク、そのロレッテの話し方は……「メイドは公爵様に愛される」のメィリーンではないか?〉

 ――え?

(どうして、オルフレット様が「メイドは公爵様に愛される」の、メィリーンを知ってらっしゃるの?)

 チラッと彼を見ると、メアリスさんにわからないよう微笑んだ。

「ロテ、ありがとう」

〈ロレッテは僕が「メイドは公爵様に愛される」を知っていて驚いているな。フフ、ロレッテが好きな本だとお茶のときに話していたから、僕もカウサに頼んで買って来てもらって読んだ〉

(オルフレット様が……甘々な恋愛の本を読んだのですか?)

 ロレッテは表情に出さず驚く。

〈あの本……恋愛の場面も良かったが、物語がとくによかった。主人公の相手役、公爵の大人の対応に憧れる〉

(私は立ち振る舞い、仕草が可愛いメイドのメィリーンに憧れます)

 オルフレット様は、手に持っていた書類を置き。

「リラ、ロテ、少し休憩するから、お茶を淹れてきてくれるかい?」

「は、はい」
「かしこまりました」

 隣の部屋に、ロレッテは枕を持ったまま下がるとすぐ、隣の執務室からメアリスさんの笑いをふくむ声が聞こえた。となりの話が気になるロレッテはお茶をリラに任せて、そっと隣の扉の前に立ち、メアリスさんの話を盗み聞いた。
 
「なーんだ。オルフレットに新しいメイドが来たって聞いて見にきたけど、あんな田舎くさい子なら側にいても安心ね」

「なにが安心だ?」

「ベーつに、こちらの話だから気にしないで。――それよりも、オルフレットの愛するロレッテが、他の人と浮気してるわよ」

「なに?」

 ――え、私が浮気?

「ロレッテ嬢が他の者と浮気をしている? メアリス嬢、いい加減な事を言うな、ロレッテ嬢が浮気などするわけがない!」

「それがさ、してるのよ。あたし、証拠を持って来たのだけど見る?」

「そんなもの、見るわけないだろう!」

「ダンッ!!」隣の部屋からオルフレット様の怒りの声と、机を叩く音が聞こえた。

「いい加減じゃないわ。あたし、口止めだってされたもん!」
 
「口止め? 誰に口止めされたんだ?」

「セルバン殿下によ。さっきロレッテから『セルバン様にお会いしたい』と書いた手紙が届いたんだって。オルフレットには黙ってろよって、セルバンは喜んで会いに行ったわよ」

(嘘? 私がセルバン殿下に「お会いたい」と書いた手紙を送った? セルバン殿下とはあの日以来、会っていないのに?)

「なに、セルバンがロレッテ嬢から手紙を貰った?」
 
「そうよ、これが証拠の手紙よ。オルフレットもこれを見れば、ロレッテのあさましさがわかるわ」

「ロレッテ嬢のあさましさ? そんなに言うのなら見せてみろ!」

 オルフレット様の苛立ちを含む声が聞こえた。
 
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