嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

35

 2人きりの執務室で、オルフレット様にキツく抱きしめられた。

〈このまま、ロレッテを連れ去りたい……〉
(オルフレット様の気持ち嬉しいのですが……徐々に魔力が溢れていません?)

 ピキピキと凍る音と肌を指す冷たさを感じた。オルフレット様がロレッテを思うあまり、魔力が溢れてしまっている。

(このままでは2人共に凍ってしまうわ? ひゃっ、スカートが凍ってきている? あ、オルフレット様の髪まで……どうしましょう)

 焦るロレッテだが、オルフレット様が急に苦しげな声を上げた。

「……ウグッ」

〈ま、まずい……魔力の制御が出来ない。今の状態だと、ロレッテに危険が及ぶし。こんな僕ではロレッテに嫌われてしまう〉

 オルフレット様の悲痛な心の声。

(いいえ、オルフレット様……私は嫌うなんて、そんなことはありません)

 ロレッテは枕を離して、オルフレット様の背中に直に手を回した。オルフレットはロレッテの手が背中に触れたのが分かったのか、体をピクッと揺らす。

「ロレッテ嬢?」
「オルフレット様、落ち着いて息を吸ってください」

 大丈夫だと。オルフレットの背中をトントンと、優しく手のひらで叩いた。オルフレット様の冷えた体に、ロレッテの体温が彼に伝わったのか、ゆっくり息を吸い、気持ちを落ち着かせていった。

 ――よかった、寒さが消えたわ。

「ありがとう、ロレッテ」
 
〈……君はそうやって前も、怖かったろうに……僕を泣きながら抱きしめてくれた〉
 
(前も、私が抱きしめた?)

 オルフレット様がいった、昔の記憶を思い出そうと探ったのだけど、ロレッテにその記憶はなかった。

 ――もしかして、オルフレット様は他の誰かと間違えていらっしゃる?「それは誰なの?」だと聞きたくても……私が勝手に聞いてしまった、オルフレット様の思い出だから聞けない。

 悲しい気持ちになるロレッテだが。
 オルフレット様の次の声に驚く。

〈忘れもしない、あの日のロレッテは天から舞い降りた"天使"だった……いま、僕の腕の中にいるロレッテは"女神"のように優しく美しい〉

 叫ぶような心の声と共に、オルフレット様にキツく抱きしめられた。
 
「ひゃっ、オルフレット様⁉︎」
「ごめん、ロレッテ。もう少しこのままでいさせて……」

〈ロレッテ、ロレッテ……〉
 
 いつもの落ち着きが消えて、子供のように抱きつくオルフレット様……彼の心の声はズッとロレッテの名前と「嫌わないで」と呼んでいた。

(なんて、オルフレット様の悲しい声……私は嫌いません、好きですオルフレット様)
 
 オルフレット落ち着くまで、ロレッテは抱きしめた。



〈温かい、ロレッテ〉

 落ち着いた心の声と、離れていく熱。
 オルフレット様の細まった瞳。

「ありがとう、ロレッテ嬢」
「いいえ、いつでも頼ってくださいオルフレット様」

「うん……」
 

 カウサ様とリカが戻る前に、オルフレット様は魔力が溢れ凍らせてしまった箇所を、魔法で元に戻した。
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