嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

36

 学園の午後、メイドに扮してオルフレット様の側にいるのも1週間経っている。今日のオルフレット様は何かあったのか、いつもとは違い機嫌が悪い。

「カウサ、この書類は本当か?」
「はい……本当です」

「分かった」
 
〈……兄上、いい加減、元に戻っていただきたい。このままでは問題が解決次第。父上が苦渋の決断を下して、兄上を退位させて国外追放するつもりだ〉
 
(王太子が退位されて、国外追放⁉︎)

 この日、どこか機嫌の悪いオルフレット様の執務室に、メアリスさんも来ていた。彼女はオルフレット様をお茶に誘いたいみたい。それが彼の機嫌を悪くしている原因の一つでもあった。

「ねぇ、オルフレット、庭園にお茶をしに行こうよ!」

「無理だ……メアリス嬢の目には、この書類の山が見えないのかな? ボクは見ての通り忙しい。どうしてもお茶がしたいのなら、セルバンと二人でお茶をされてはいかが、かな?」

「え? セルバンと? ハハハ、オルフレットは何を言うの? セルバンは今頃、ロレッテとデートをしてるって」

「何? ロレッテ嬢とセルバンがデートをしている? それは無理な話だな。ロレッテ嬢は今、王都と近くの薔薇園に家族と出かけていると、聞いている」

 メアリスさんがいきなり、オルフレット様の執務室に来るので、今日は家族とお出かけの設定にしていた。

「「はぁ? ロレッテが、ば、薔薇園だって⁉︎」」
  
〈何をそんなに驚くんだ? 僕に時間があればロレッテと薔薇園へデートに出かけたい。その後は王都で買い物をして、城に戻り僕の部屋で二人きりの時間を過ごす……いいなぁ〉

 そのオルフレット様の声に、ロレッテの心は浮き浮きさせた。

(嬉しい、いま人気の薔薇園に誘っていただけるの? ローズの香りの石鹸、香水。スコーンにぴったり合うバラのジャムが手頃な値段で販売していると、リラと他のメイド達が話しているのを聞きましたわ。薔薇園の後に王都で買い物して、まだ数回しか入った事のない、オルフレット様の部屋で二人きりだなんて……)

 楽しみにしていますわと、オルフレット様の後ろで窓拭きをしていた。フフ――その日が来ましたら、お気に入りのドレスを身に付けて、オルフレット様の好きなものばかりの、お弁当を作りいたします。

 そのロレッテのウキウキ気分を崩す、彼女の金切り声が聞こえた。

「あの女! 薔薇園に行く日が違う! これじゃ、あたしとオルフレットの大事なデートイベントが……フラグが立たないじゃない! なんなのあの女? 悪役令嬢の癖にまったく役に立たない!」

「メアリス嬢! ロレッテ嬢は僕の婚約者だ。いい加減、言葉に気をつけろ!」

〈それに……大事なデートイベント? フラグ? 悪役令嬢? また訳のわからない言葉を使う。気にはなるが「なんだと聞いて」これ以上、彼女に執務室に居座られても疲れるだけだな……〉

(イベント? フラグ? 悪役令嬢は彼女がよくいう言葉……だけど)

 "ふと" ロレッテの頭の中に、何かが思い浮かぼうとしたのだけど。それはすぐに、モヤが掛かって消え去ってしまった。だけど、そのメアリスさんの言葉がロレッテは気になった。
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