嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

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 母上と会い話して、ロレッテの安全は確保でき、僕が視察に出るまで後一週間になった。
 

 その日は未明から雨だった。
 雨の日は馬車などの、事故を回避する為に学園は休校となる。降り出した雨は止むことがなく、お昼を過ぎた頃には大粒の雨を降らした。
 
 視察で訪れる予定、老朽化したウルラート国とローリゲス国を結ぶアルータ橋。一日中、降り続いた大雨のせいで、老朽化していた橋の欄干(らんかん・手すり)の一部が崩れ落ちた報告を受けた。

 他にもひび割れを見つけ、馬車は通れないが人は通れると報告を受けた。ボクとカウサ、父上、父上の側近、兄上の側近は密かに王城の一部屋に集まり、職人などの手配の対応に追われた。



 ❀



 今朝方、夜中降り続いた大雨は上がり、一台の馬車がロレッテの屋敷の前に止まった。その馬車からオルフレット様、護衛数名とカウサ様が降りてくる。

 だが馬車は王家の物ではなく、普通の馬車でいらしたオルフレット。対応に出向いたお父様に「オルフレット殿下が屋敷にいらした。ロレッテも準備して来なさい」と呼ばれた。私は直ぐにリラを呼び着替えて、オルフレット様が待つ応接間に向かった。

「失礼いたします」

 応接間にはいつもの装うとは違う、執事服姿のオルフレット様とカウサ様がいた。そういえば扉前に居た護衛の騎士達も軽装だった。まるで変装して何処かに出掛けるような装い。

 お父様とロレッテが応接間に来ると、オルフレット様は話を始めた。

「こんな、朝早くにすまないコローネル公爵、ロレッテ嬢。ボクは今から視察に出ることになった」

「えっ、もう行かれるのですか?」

 執務室で聞いたオルフレット様の話では、視察に向かうのは夏季休暇が入ってからだから、後一週間はあったはず。

「昨日の大雨で、隣国ウルラート国とローリゲス国を結ぶアルータ橋の一部が崩れてしまった。その橋の復旧と辺りの視察に向かう。それでなのだが……ロレッテ嬢はボクがいない間、夏季休暇に入るまでの1週間学園を休校して欲しい」

「え? 学園を休校ですか?」
「オルフレット殿下、それはどういうことですか?」

 いきなりオルフレット様の口から出た、学園の休校の話に隣に座るお父様も口を出す。

「それは……」

 オルフレット様は口を濁した。

〈これしか策が思いつかなかった。いま、ロレッテにセルバンに狙われていると言って、怖がらせたくはないのだが……〉

(私がセルバン殿下に狙われている⁉︎ あの日……その様に感じたのは私の勘違いではなかったのですね。いやらしく彼に……上から舐めるように見られましたもの)

「コローネル公爵には言いにくい話ですが……ボクという婚約者がいると知っておきながら、隣国のセルバン・ローリゲス殿下はロレッテ嬢に好意を寄せております。ボクのいない隙を狙い、ロレッテ嬢に危険が及ぶかもしれません」

〈確実に奴は動く、しっかりコローネル公爵に伝えなくては……〉

(それは怖いわ)

「なんと! ……隣国のセルバン殿下がロレッテに好意を寄せている? その噂は知っております……まことでしたのですな」

 お父様は眉をひそめ。
 オルフレット様は頷いた。

「はい。ここ数日の間、コローネル公爵の宰相の執務中。彼は何度も、ロレッテ嬢に会いに屋敷に訪れています」

「なに? そのような報告は執事に受けていない!」

「そうですか……だとすると、セルバンは屋敷の者に話を通さず、ロレッテ嬢を連れ出そうとしていたのかもしれません」

 この屋敷に来て私を連れ出そうとしたと知り、驚きを隠せないお父様。数日間。ロレッテがメイドとしてオルフレット様様の執務室にいたから、セルバン殿下とはお会いすることはなかった。

 ――不幸中の幸い。
 
 しかし、本日からオルフレット様は視察で王城にいない、ロレッテがお父様とこれまでと同じく王城に出向いても。護衛としてつくカウサ様、騎士たち数名はおらず手薄だ。

 また屋敷にいても、危険に晒される可能性がある。

〈奴がどんな手を使うのか分からない。大袈裟かもしれないが、ロレッテに何かあってはならない〉

 ほんとうに彼は何をするのか分からない……セルバン殿下と二人きりになるのを避けなくてはならない。だって、襲われたら、ロレッテ1人では男性の力には抗えない。

「それは一大事、オルフレット殿下は何か案はあるのでしょうか?」

 オルフレット様は、お父様にコクリと頷く。

「公爵、僕にいい案があります。ところで、公爵は王都に開店したばかりの、サンドイッチ屋をご存知でしょうか?」

「サンドイッチ屋ですか? ああ、知っております――王都に新しく開業した店ですね」
 
「そうです、そのサンドイッチ屋、実は僕の母上が開いたサンドイッチ店なんです」

「えぇ! シャンティ王妃が開い店?」

 お父様は、お母様から話を聞いていなかったのか、驚きの声は屋敷中に響き渡った。
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