嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

50

 遅くなった夕飯が終わり、カウサ様とリラは使った食器の後片付けを始め。ロレッテは食後の紅茶を、オルフレット様と楽しんでいる。

「ロレッテ嬢、どの料理も美味しかったよ」
「オルフレット様のお口に合ってよかったです」

 だけど、一つ気がかりなことがあった。それはオルフレット様が、何かずっと悩んでいらっしゃるようだった。

〈ロレッテ、食事が終わった後で言うか。それとも今言うか〉

(オルフレット様が私に伝えたいこと? 何を伝えたいのかしら?)

 食事中、表には出さなかったけど、彼の心の中はざわついていた。そのざわつきはおさまらず、いまも続いている。もしかして視察地で何かが起きて、すぐにここを立つと言うのかしら。

(そうだとしたら寂しいですけど、笑顔で送り出します……国の大切な仕事ですもの)
 

「そうだ、この後……」

 オルフレット様が話し出したと同時に、コンコンコンと食堂の扉を叩く音がして、店に王妃様のメイドのエリー様だけが帰ってきた。

「ロレッテ様、シャンティ様は今日はここに戻らず、他に取った宿に泊まるそうです。ロレッテ様にシャンティ様からの伝言で「よかったら、オルフレット様と2階の空いている部屋を使いなさい」と申されておりました」

(え? 2階の空き部屋をオルフレット様と使う⁉︎ この話に私はどう返せばいいのかしら? ……わかりました。それとも……)

 ロレッテは返す言葉が見つからず、困っていた。
 その焦るロレッテを見かねたのか、エリー様にオルフレット様が言葉を返す。

「エリーそれなら大丈夫。僕は他に宿を取っていると、母上に伝えてくれるかい」

「宿をとっている。――はい、かしこまりました、そのようにお伝えいたします。オルフレット様、ロレッテ様、私はこれで失礼します」

 エリー様が去り静かになる店、いまオルフレット様は他に宿を取っているとおっしゃった。

(ほんとうは、オルフレット様と一緒がよかったけど……今日は色々あって疲れているはずだから……あ、オルフレット様が、私に伝えたいことがわかりましたわ。オルフレット様はとった宿に戻り、休むと私に伝えたかったのですね。そうでしたら、ゆっくり休んでいただかないと)

 考えを巡らすロレッテの横で、

「あのさ、いま伝えた宿の話なんだけど……ロレッテ嬢、聞いている? ロレッテ嬢?」

 とオルフレットが話しかけたが、ロレッテの反応はない。
 
「……」

(もう遅い時刻ですもの、これ以上ここに引き止めてしまったら、オルフレット様はごゆっくり休めなくなってしまう。見回りがありますから、宿で休んでくださいと伝えても……優しいオルフレット様のことだから待つとおっしゃるかも)

 なら早く、店の見回りを終わらせなくてはいけません。と、ロレッテの考えは明後日の方向を向いた。

「オルフレット様、リラと店の戸締りのチェックをしてきます」

「……あ、ああ、わかった」

 ホールにオルフレット様とカウサ様を残して、リラを連れ店中の見回りを始めた。後ろに着いて一緒に見回っていたリラは、とんでもないことを言い出す。

「ロレッテお嬢様、旦那様には私から伝えておきます。オルフレット様の宿に着いて行ってはいかがでしょうか?」

 ――私がオルフレット様の宿に行く?

「リラ、いきなり何を言うの?」

 ロレッテはリラの言葉に鼓動が上がり、頬に熱がこもってしまう。

「お嬢様はオルフレット様の婚約者です。それぐらいの、わがままは許されませんか?」

 ……わがまま。

「リラ、できないわ。いくら私がオルフレット様の婚約者だからといって、ご休憩場所にお邪魔をするなんて失礼よ……一緒に過ごしたいのは山々ですけど」

「でしたら、ロレッテお嬢様」
「リラ、やめて」

 ロレッテだって、ほんとうは劇や本の中の恋人のように、オルフレット様にべったり甘えたい。大きな手で髪を撫でられて、ロレッテの名前を呼んでもらって、もっと彼にくっ付きたい。

「すみません、余計な事を申しました」

「いいえ、私こそ大きな声を上げてしまってごめんなさい。でもありがとう、リラ」

「ロレッテ嬢? 店の戸締りは終わった?」

 ロレッテたちの話し声が聞こえたのか、オルフレット様が話しかけてきた。後、裏口を見たり2階を見回れば終わりだ。

「後は私が見回りますので、ロレッテお嬢様はオルフレット様の所へ行ってください」

「……ありがとう、リラ。後はあなたに任せるわ」

 さぁ行ってくださいとリラに背中を押されて、ロレッテはオルフレット様が待つホールへ戻った。
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