嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。
52
時刻は7時過ぎ。オルフレット様と並んで、ランタンの炎が煌めく夜の王都を歩く。王都では日が暮れ始めると、勝手にランタンに火が灯る。街の中はその明かりでオレンジ色に輝いていた。
オルフレット様はその輝く、ランタンを楽しげに眺めて。
「ロテ、いまは別の場所に研究室を移したが。これは魔法省が開発した、日が暮れると地頭に火が灯る魔導具のランタンなんだ」
「魔導具のランタン……そうだったのですね。ランタンの灯りとても綺麗です」
「あぁ、綺麗だな」
ランタンの灯りでオレンジに染まる王都、その中をオルフレット様と手を繋ぎ歩く。横を通り過ぎる人々は誰も彼のことを、第二王子オルフレット様だと気が付かない。
(なんて、幸せなひとときなのかしら)
そのとき風にのってふんわり、どこからか甘い香りが2人の鼻をくすった。
「なんだか、甘い香りがしないか?」
「えぇ、とても甘い香りがしますわ」
〈フフ、ロレッテの瞳が探してる。甘い香りが気になったか〉
(えっ?)
ロレッテが甘い香りに興味を持ったと分かったからなのか、オルフレット様が私の手を握り王都の中を走り出す。
「オル?」
「ロテと食べたい! 僕と一緒に匂いの元を探そう!」
「はい、行きましょう!」
〈笑った、ロレッテ可愛いなぁ〉
(オルフレット様もですよ)
2人で匂いをたどり着いたのは一軒の屋台だった。
丸い一口のケーキ? ふんわり焼き? 鉄板には丸い小さな凹みが並び、そこに生地を流し込み焼いている。
〈面白い。櫛の様なもので生地をコロコロ転がし、焼かれていく――これは見ていて飽きないな〉
(ほんと飽きないですわ)
屋台の前で足を止めて、職人の手でコロコロと小麦色に焼かれる、ふんわり焼きに目を奪われていた。店の看板に小麦粉と卵、砂糖とバターを混ぜて焼く、一口サイズの甘いお菓子だと書かれていた。
「いらっしゃい、お2人さん! ふんわり焼きを買っていくかい?」
「はい、10個入りを一つください」
甘い匂いにつられて、つい頼んでしまった。屋台のおじさんは焼きたてのふんわり焼きを10個、紙袋に中に入れていく。
「毎度、あり! 10個入りは30ダルだよ!」
「30ダルだな」
オルフレット様に払ってもらうなんてと、お財布を取り出しす前に払ってしまう。
「ロテ、ふんわり焼きだ」
「オ、オル、ありがとう」
「あっちの椅子に座りながら食べよう!」
街の中だけ砕けた言葉と"オル"と"ロテ"と、お互いを呼ぼうと初めに決めていた。そうなのだけど……オルフレット様をオルと口に出して呼ぶだけで、どきどき鼓動が跳ね上がり……ロレッテは変な照れ笑いをしていると思う。
〈ロレッテ、可愛いなぁ、ボクを呼ぶたびに照れているのがわかる。ボクもロレッテにオルと呼んでもらうだけで、嬉しくて顔がにやけるよ〉
(まあ……オルフレット様の心の声まで弾んいるわ)
「あ!」
彼は何か見つけたのか、ふんわり焼きが入った袋をロレッテに渡した。
「ロテ! ふんわり焼きをここで持っていて。あそこで果実水が売ってる買ってくるよ」
「いってらっしゃい、オル」
❀
ベンチに並んで座り、オルフレット様に買ってもらった。ふんわり焼きと苺の果実水。
「いただきます」
「いただきます」
2人で頬張ったふんわり焼きは、ほのかに甘く名前の通りふんわりしていた。
「美味しい、ロテ」
「美味しいです、オル」
余りの美味しさに取り合って食べて、10個もあったふんわり焼きの入った袋は空っぽ。それを2人で覗き込み「もう無いね」と笑い合った。
並んで果実水を飲み、まったりとオルフレット様の視察での話を聞いていた。彼が何か物音が聞こえたのか、キョロキョロ辺りを気にしはじめた。
〈足音が聞こえた……こちらに誰か来る?〉
(えっ?)
その直後にガチャ、ガチャと鎧の擦れる音と、甲高い女性の声が聞こえた。
「ちゃんと探して! 絶対にこの辺にオルフレットがいるはずなのよ!」
この女性の声って、メアリスさん? どうして彼女がここで、オルフレット様を探しているの? 隣のオルフレット様をみると彼も驚いているようだった。
〈おかしい……ボクがここにいることを知るのは、側近のカウサと、ロレッテのメイドだけのはず〉
(彼の言う通り。私とオルフレット様が王都の中を散歩中だと知っているのは……カウサ様とリラだけ。なのにどうして?)
メアリスさんがなんのために、オルフレット様を探しているのかは知りませんが……このままでは見つかってしまう?
(いやよ! せっかくの二人きりの時間を、あの子に邪魔されたくないわ!)
「オル、ごめんなさい」
「え?」
〈ロテ? ……そ、そ、それは待てぇ!〉
(ごめんなさい、これしか思いつかない)
彼女に見つからないように、ロレッテはオルフレット様の顔を大胆に胸に抱き込んだ。
オルフレット様はその輝く、ランタンを楽しげに眺めて。
「ロテ、いまは別の場所に研究室を移したが。これは魔法省が開発した、日が暮れると地頭に火が灯る魔導具のランタンなんだ」
「魔導具のランタン……そうだったのですね。ランタンの灯りとても綺麗です」
「あぁ、綺麗だな」
ランタンの灯りでオレンジに染まる王都、その中をオルフレット様と手を繋ぎ歩く。横を通り過ぎる人々は誰も彼のことを、第二王子オルフレット様だと気が付かない。
(なんて、幸せなひとときなのかしら)
そのとき風にのってふんわり、どこからか甘い香りが2人の鼻をくすった。
「なんだか、甘い香りがしないか?」
「えぇ、とても甘い香りがしますわ」
〈フフ、ロレッテの瞳が探してる。甘い香りが気になったか〉
(えっ?)
ロレッテが甘い香りに興味を持ったと分かったからなのか、オルフレット様が私の手を握り王都の中を走り出す。
「オル?」
「ロテと食べたい! 僕と一緒に匂いの元を探そう!」
「はい、行きましょう!」
〈笑った、ロレッテ可愛いなぁ〉
(オルフレット様もですよ)
2人で匂いをたどり着いたのは一軒の屋台だった。
丸い一口のケーキ? ふんわり焼き? 鉄板には丸い小さな凹みが並び、そこに生地を流し込み焼いている。
〈面白い。櫛の様なもので生地をコロコロ転がし、焼かれていく――これは見ていて飽きないな〉
(ほんと飽きないですわ)
屋台の前で足を止めて、職人の手でコロコロと小麦色に焼かれる、ふんわり焼きに目を奪われていた。店の看板に小麦粉と卵、砂糖とバターを混ぜて焼く、一口サイズの甘いお菓子だと書かれていた。
「いらっしゃい、お2人さん! ふんわり焼きを買っていくかい?」
「はい、10個入りを一つください」
甘い匂いにつられて、つい頼んでしまった。屋台のおじさんは焼きたてのふんわり焼きを10個、紙袋に中に入れていく。
「毎度、あり! 10個入りは30ダルだよ!」
「30ダルだな」
オルフレット様に払ってもらうなんてと、お財布を取り出しす前に払ってしまう。
「ロテ、ふんわり焼きだ」
「オ、オル、ありがとう」
「あっちの椅子に座りながら食べよう!」
街の中だけ砕けた言葉と"オル"と"ロテ"と、お互いを呼ぼうと初めに決めていた。そうなのだけど……オルフレット様をオルと口に出して呼ぶだけで、どきどき鼓動が跳ね上がり……ロレッテは変な照れ笑いをしていると思う。
〈ロレッテ、可愛いなぁ、ボクを呼ぶたびに照れているのがわかる。ボクもロレッテにオルと呼んでもらうだけで、嬉しくて顔がにやけるよ〉
(まあ……オルフレット様の心の声まで弾んいるわ)
「あ!」
彼は何か見つけたのか、ふんわり焼きが入った袋をロレッテに渡した。
「ロテ! ふんわり焼きをここで持っていて。あそこで果実水が売ってる買ってくるよ」
「いってらっしゃい、オル」
❀
ベンチに並んで座り、オルフレット様に買ってもらった。ふんわり焼きと苺の果実水。
「いただきます」
「いただきます」
2人で頬張ったふんわり焼きは、ほのかに甘く名前の通りふんわりしていた。
「美味しい、ロテ」
「美味しいです、オル」
余りの美味しさに取り合って食べて、10個もあったふんわり焼きの入った袋は空っぽ。それを2人で覗き込み「もう無いね」と笑い合った。
並んで果実水を飲み、まったりとオルフレット様の視察での話を聞いていた。彼が何か物音が聞こえたのか、キョロキョロ辺りを気にしはじめた。
〈足音が聞こえた……こちらに誰か来る?〉
(えっ?)
その直後にガチャ、ガチャと鎧の擦れる音と、甲高い女性の声が聞こえた。
「ちゃんと探して! 絶対にこの辺にオルフレットがいるはずなのよ!」
この女性の声って、メアリスさん? どうして彼女がここで、オルフレット様を探しているの? 隣のオルフレット様をみると彼も驚いているようだった。
〈おかしい……ボクがここにいることを知るのは、側近のカウサと、ロレッテのメイドだけのはず〉
(彼の言う通り。私とオルフレット様が王都の中を散歩中だと知っているのは……カウサ様とリラだけ。なのにどうして?)
メアリスさんがなんのために、オルフレット様を探しているのかは知りませんが……このままでは見つかってしまう?
(いやよ! せっかくの二人きりの時間を、あの子に邪魔されたくないわ!)
「オル、ごめんなさい」
「え?」
〈ロテ? ……そ、そ、それは待てぇ!〉
(ごめんなさい、これしか思いつかない)
彼女に見つからないように、ロレッテはオルフレット様の顔を大胆に胸に抱き込んだ。