嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

54

 宿屋に向かう途中に店じまいを始めていた、一軒の店を見つけた。オルフレット様はその店を興味深く見ている。

〈ここは古本屋か……〉
(古本屋?)

 その古本屋は店じまい中で、8時の鐘が鳴ると同時に店は閉まってしまうだろう。オルフレット様がいまの機会を逃せば、次に店に来れるのは視察の後になるだろうし。王城に戻れば執務もあるから、しばらく王都に出れない。

「オル、この古本屋に入ってみますか?」
「え? いいのか?」

 ロレッテはコクコク頷き、早く入ろうと彼の背中を押した。

「ロテ?」

「私も本が気になります。でも、早くしないと店が閉まってしまいますわ」

 遠慮気味のオルフレット様と、一緒に古本屋の中に入る。古本屋の中は屋敷の書庫よりも一回りくらい小さく、本の数は古本屋の方が多かった。

 本の種類は古地図、食べ物の歴史、国の歴史など専門的な書物の中に、恋愛の本が置かれる棚を見つけた。

「オル、私はこっちで恋愛の本を見ております」
「わかった、ボクは専門書の所にいる」

 離れて本を見回り――数分後。ロレッテは2冊の本を手に彼の元に戻った。彼もまた2冊の専門書のような本を手にしていた。

「それがロテの見たい本?」
「はい、良さそうな恋愛の本を見つけましたわ」

 見つけた、2冊の本をオルフレット様に見せる。

〈ほぉ王子と姫の恋物語と、異国の魔法使いと弟子の恋物語の本か……どちらもロレッテの好きそうな本だ〉

「中々、面白そうだね」
「読むのが楽しみです」

 オルフレット様はどの本を選んだのだと見れば、薬草図鑑と薬草に関した資料の本だった。 

「薬草に興味があるのですか?」

「あ、いや……興味というか、ちょっと調べたい薬草があってな」

 調べたい薬草?

〈やはり隣国から商人が国に持ってきた、薬草がなにか気になる〉

(隣国の商人? 薬草?)

 これはオルフレット様の仕事の話だ。彼が気になる薬草は気になる所だけど――ロレッテが聞いても、詳しくは教えてはくれないだろう。

〈ほんとうなら書庫で調べたいが……城の書庫に行くとメアリス嬢に見つかるしな〉

(そうね、彼女がオルフレット様を見つけたら……ついてきそうだわ)

 カーンカーン、8時を知らせる鐘の音が鳴った。閉店を迎える古本屋で会計をすまして、今日の宿屋へとロレッテ達は向かった。


 
 ❀
 


 着いた宿屋は王都で1、2位を争う高級な宿屋。彼はフロントで鍵をもらうと、ロレッテを部屋へと案内した。

「今日、泊まる部屋だよ」

 扉を開けた部屋は、お風呂などの水回りが整った部屋で。1番驚いたのは奥の部屋のダブルベットだった。オルフレット様と2人きりの部屋……彼はもしかしてその気なの? と驚きを隠せないロレッテに。

「ロレッテ嬢、実はカウサとリラにも、この宿屋に来てもらっている」
 
「え?」
 
「ロレッテ嬢の着替えも、リラに準備してもらってあるからね」

 入り口近くにオルフレット様の荷物の他に、ロレッテの荷物も置いてあった。彼は会いに来る前に私の両親と会い、2人で泊まる許可をもらったと教えてくれた。

〈コローネル公爵には結婚が終わるまで、ロレッテには手を出すなと言われている。この男の約束は守る〉

(オルフレット様は……お父様とそんな約束をしたのですね。ほっとしたのと、少し残念な気持ちが混ざる。でも彼の腕の中で今日は眠れるかしら?)

「ロレッテ嬢、先にお風呂をどうぞ」
「は、はい、先に使わせていただきますね」

(そうよね……お風呂も入らないと)

 近くの部屋からリラを呼び、先にお風呂を使わせてもらった。着替えを出すために荷物を開けると、見覚えのある物がカバンの中に入っている。

 ――こ、これは⁉︎

 いつの日のためにとタンスの奥に大切にしまっておいた、ネグリジェと……お母様の手紙? その手紙には「オルフレット様に全てを任せなさい」と書いてあった。

 ミンヤお母様ったら、オルフレット様に任せなさいだなんて……それはまだです。それに、このネグリジェを着る為にはお腹のお肉を減らしたり、それなりに準備が必要なんですから――まだ、このネグリジェは着れませんわ。
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