嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

6

〈ロレッテを悲しませた、僕のせいだな――〉

 そのオルフレット殿下の心の声は、いまにも泣きだしそうな、苦しげな声だった。ロレッテは訳がわからなくて頭が混乱する、早くここから立ち去らないと……と思う反面。オルフレット殿下の声をもっと聞きたいと思う、ロレッテがいた。

(私はオルフレット殿下が好き。でも前のような事があると思うと……怖い)

 オルフレット殿下はロレッテが立ち去らないとわかったからか。

〈ロレッテをお茶に誘いたい……あ、いや、嫌われている僕が、ロレッテをお茶に誘ってもよいのか?〉

 と悩み出した。

 あまりにも表と心の中の声が違う、オルフレット殿下。彼がどう話すのかロレッテは静かに待ってみた。――遂に殿下は心を決めたのか、瞳に力が入る。

「ロ、ロレッテ嬢、きょうは天気がいい。僕とテラスでお茶をしない、かぁ」

「⁉︎」

〈し、しまった。緊張して声が裏返ってしまった……〉

(かわいい……)

 このお茶の誘いにロレッテが「はい」とお受けしたら、オルフレット殿下の心の声はどんな反応をするのだろうか。

(喜んでくださる? それとも……)

 鼓動を早くしながら、ロレッテは殿下に会釈した。

「えぇ喜んでお受けいたしますわ、オルフレット殿下」
「……」

〈やはり、ダメ……えっ、喜んでお受けする? いいのか⁉︎ はやく、ロレッテの気が変わらないうちにテラスへ行こう〉

「ではロレッテ嬢、行こうか」

 オルフレット殿下が優雅に差し出した手に、ロレッテは自分の手を重ねた。

〈うれしい……。久しぶりにロレッテと二人きりの時間だ〉

 浮き上がる心の声に、ロレッテもうれしくなる。ロレッテはそうだと、オルフレット殿下の表情が気になり横顔を盗み見る。そこには珍しく、目元と口元を緩ますオルフレット殿下がいた。

(表の表情に出てしまうほど、私とのお茶を喜んでいる?)

「ロ、ロレッテ嬢、今日は暑くなくて過ごしやすいね」
「ええ、風がとても気持ちいいですわ」

〈……かわいい。もっと見つめていたい〉
〈ロレッテとお茶だなんて、幸せすぎる〉
〈そうだ、ロレッテの好きな紅茶とケーキを用意しよう〉

(オルフレット殿下、落ち着いたください)

 こんな調子のオルフレット殿下にエスコートされて、ロレッテはテラス席へと移動した。



 ❀
 


「さぁ、座って」
「あ、ありがとうございます」

 ロレッテは学園の生徒達がいる、庭園のテラス席だと思っていた。しかし、お茶の席が準備されていたのは、王族しか入れない学園の特別な場所だった。
 
「ロレッテ嬢、お茶が入ったよ」
「いただきます、オルフレット殿下」

〈ああ、紅茶を飲む姿も可愛い〉
〈今日のドレスも似合っている〉
〈僕の色のドレスを送ったら、ロレッテは着てくれるだろうか?〉
 
〈ロレッテ、ロレッテ……〉

(……あの、だ、誰か、オルフレット殿下の心の声をお止めてください。近くの警備の騎士、殿下の側近、離れた位置にいるメイドの方でもいいですわ)

〈フフ、僕の瞳に狂いはない。ロレッテは苺のケーキが似合っている〉

 と、オルフレット殿下を見ても。彼は穏やかに微笑んで、向かいの席で紅茶を飲んでいるだけ。だけど、なかの、心の声はますます弾む。

 もう誰も、オルフレット殿下の心の声は止められない。

〈ロレッテ、好きだよ〉

 オルフレット殿下の思いを聞いて、ロレッテは驚き、手を滑らせてしまう。ガシャンと静かな庭に紅茶のカップが音をたてた。

「大丈夫か? 火傷はしていないか?」
「へ、平気です……オルフレット殿下、失礼しました」

〈よかった、火傷はしていないみたいだな。あ、ロレッテの口元に苺ケーキのクリームが付いている。そのクリームを僕がとったら怒るかな?〉

(私の、口元にクリーム?)

 ロレッテがとる仕草をすると、オルフレット殿下はサッとハンカチを取り出した。

「ロレッテ嬢、このハンカチを使って」
「あ、ありがとうございます」

〈ほんとうは僕が拭きたかった〉
(…………⁉︎)

 聞いている、こっちらが恥ずかしいです。

〈どうした? ロレッテの頬がほんのりピンク色に染まった? まさか僕を見て照れているのか?〉

(そうですけど……ほとんど、殿下の心の声に照れています)
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