嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

57

 黄昏とき、サンドイッチ屋の前に馬車が止まった。
 ロレッテがもしかしてと外に出ると、やはりオルフレット様がなる馬車。その馬車の扉が開き、執事姿のオルフレット様の姿が見てた。

「ロレッテ嬢、ただいま」
「オルフレット様、おかえりなさい。視察はどうでした?」

「初めての事ばかりで戸惑うこともあったが、なかなか勉強になったかな」

〈ようやく戻ってきた。のんびりとはいかないが……毎日、ロレッテと過ごせる〉

(はい!)

 なかで休憩しますか? と聞いたが。オルフレット様はすぐ王城に戻り、国王陛下に報告しなくてはならない言った。

「すまない、ロレッテ」

「あ、謝らないでください。明日になったら王城にお父様と向かいますわ」

「明日か、明日、王城で待っている。そうだ帰りに寄った街で、ロレッテに似合いそうな髪飾りを見つけた」

 オルフレット様は胸ポケットから、白い花飾りを取り出し渡した。

「可愛い……ありがとうございます、オルフレット様」
「ロレッテ嬢の髪に付けてもいい?」

 はい。と付けやすくオルフレット様に近寄り、結い上げた髪に、ロレッテは白い花の髪飾りを付けてもらった。

「ロレッテ嬢にとても似合っている。では、また明日」
「はい。明日、王城でお会いしましょう」

 会釈の後、彼が近寄り頬に軽くキスされた。驚きもあったけど、彼を見つめて瞳を瞑るとやさしく唇が重なった。

〈喜ぶ顔が見れて、幸せだ〉
(私もですわ)

 王城に戻っていく、オルフレット様が乗る馬車を見送った。



 ❀

 

 2週間後――アルータ橋の修復も終わり、元のように商人たちが行き交っていた。その荷車の中に、あの時の馬車が通ったことを誰も気付かなかった。

 その馬車は前と同じく大量に薬草を乗せて、ウルラートの王都へ向かって走り去っていった。

 

 王城に戻ったオルフレットが視察に行く前と、戻った後では城の中の様子が変わっていた。事情を全て知った母上が王城に戻り、父上を「何をチンタラやっているのです!」と、一括したあと。兄上とメアリスさんの家族、関わった人たちを全て追い出した。

 捕まった兄上は「私は皇太子だ!」と文句を言ったが。

「いい加減にしなさい! 第2王子のオルフレットに執務を押し付け、遊び呆ける皇太子は邪魔な存在です。今すぐ、あなたも荷物をまとめなさい!」

 メアリスさん達が皇太子の様に、簡単に国王陛下を取り込められなかった。王妃は、王都でサンドイッチ営みながら調査人を王城へと送り城の内部を調べた。彼らの実態がわかったが、使用されている薬草の種類までは特定できなかった。

「男爵令嬢スノール嬢、あなたは皇太子の婚約者としては認められません。そして国民の大切なお金――国庫まで私的に使うとは何事ですか?」

 契約書と婚約者だと認める印が、国王陛下のものと違っていた。その為、書類は当然ながら無効となり、メアリスさんの姉は皇太子の婚約者だと認められなかった。

「母上、この書類が偽物だと言う証拠はありますか?」

「あります。陛下の印に彫られた国鳥の羽の数が違いますし。印には魔法がかけられていて、本人ではない者が使用すると、本来の印とは違う絵に変わる仕組みです。ルルーク、あなたには失望いたしました」

「クソっ、知らなかった」

「あなたが陛下となれば、いずれ明かされる秘密でしたよ」

 彼らは王都近くにある収容所として、使用されている古別荘へと連行された。その一行の中に隣国のセルバン殿下は逃げたのか、その場にいなかった。彼が薬草について知っていると、国中を探すが今の所見つけられずにいる。

 オルフレット様もメアリスさんの来襲がなくなり、執務室を離れから元の部屋へと戻した。ルルーク皇太子が捕まり、次の皇太子は第二王子のオルフレット様に決まった。

 ロレッテはメイドとしてではなく、次の王妃として王城へ来ては、彼と共に仕事を覚える日々を送っている。

「オルフレット様、何が手伝う事はありますか?」
 
「ロレッテ嬢、この書類の整理とこの書類を確認したら、その箱に入れて宰相へ送ってくれ」

「はい、かしこまりました」

 まだ色々と問題は残るが、ロレッテはオルフレット様と変わらず、仲良く執務室で過ごしている。陛下と王妃は奴らによって止まってしまった交易、隣国との交渉に日々、追われた。
  
 だが。王都のサンドイッチ屋は店を閉めず週に1回、店を開けて、王妃自らお客に料理を振舞っている。もちろんロレッテも、時間がある日にお手伝いをしている。

 みんなの努力もあり、徐々に王城の中は平穏を取り戻していた。

 

 ❀



 それは夜半ごろ。一台のランタンを灯した荷馬車が古びた屋敷の裏口に止まる。その持ち主は隣国の商人の荷馬車だった。屋敷の裏口で呼び鈴を鳴らすと、扉が開き屋敷の主人らしい人物が現れた。

 商人は荷馬車を開けて、品物を男に見せた。

「頼まれた品物をお持ちいたしました」
 
「ほお、中々の良い品物だな。手間賃と料金だ、受け取れ」

「ありがとうございます。今後ともご贔屓のほどよろしくお願いいたします」

 商人は料金を受け取ると荷馬車を走らせて、その館を後にした。受け取った館の主は目の下に濃い隈、真っ黒なローブを着た男だった。
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