嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

61

 聞けば聞くほど、それは不思議な話だった。

 女神のミスにより間違われた転生……ロレッテが今いる世界は乙女ゲームが好きな、アヤちゃんが来るはずだった世界。

(乙女ゲームに詳しい、アヤちゃんがこの世界に来ていたら、もっとスムーズに話が進んできたわね。女神の間違いで、ロレッテになってしまった私が何も知らない世界……私のせい? ――でもいまは私の事よりも、眠ってしまわれた、オルフレット様たちをどうにか助けなくてはならない)

 大切で、大好きな彼の目を覚ましたい。
 そうだ、あの図鑑――あの図鑑にヒントがあるのかも。だとしたら頭痛がなくなった今、もう一度見てみなくてはならない。

 それなら早く戻って。
 
「女神様、記憶のことも転生のこともわかりました。私は早く元の世界に戻り、彼を目覚めさせる解毒薬を探さないといけません」

 そう伝えると、女神様は眉をひそめた。

「ええ、そうね。でも、あなた様に酷なことを申しますが……根本的な乙女ゲームの内容を知らない、今のあなた様の力では解毒草を探す事ができません」

「えっ?」

 ――いまの私の力では無理?

「だとしたら、どうすればいいのですか?」 

「お詫びついでに一つ提案があります。あなた様に授けたスキルを私に一つ返上していただき。解毒草だけではなく、植物全種を見極める力を身につけるのはどうでしょうか?」

 植物全種を見極める力。
 そのスキルがロレッテにあれば、解毒草を見つけれる。

「そのスキルがあれば……見つけれるのなら。女神様、お願いいたします」
 
「では、あなた様の返上するスキルを一つ述べてください」  

 女神様に返上をするスキル。
 そんなの一つしかない。

「彼の心の声が聞こえる、このスキルを返上いたします」
 
「……え? いいのですか?」

「私には必要ありません。はい、それでお願いします」

 だって、やさしいオルフレット様の声をたくさん聞いた。本来ならロレッテにも元の私にもない力……もう必要ない。

「わかりました――それと、あなた様は色々とファンタジーについても知識不足のようです。魔法発動の条件を詠唱が要らず、イメージと言葉だけで使えるようにいたしましょう」

 魔法の詠唱がいらない?
 イメージと言葉?
 女神の話はよくわからないけど、授かった後で試してみよう。

「ありがとうございます、女神様」
 
「ではスキルを交換を行いますので、あなた様は目をお瞑りください」

 言われた通りに目を瞑ると、女神はアヤの額に人差し指を当て、すぐに離した。 

「あなた様のスキルの書き換えが終了いたしました」
 
「ありがとうございます。これで……みんなが目を覚ます、解毒草が探せるんですね」

「ええ」

 これで解毒草を見つけることが出来れば、オルフレット様とみんなを助けられる。

「……サイトウアヤ様、私のミスですみませんでした」

 深く頭を下げた女神に、アヤは首を振る。

「いいえ、謝らないでください。私は後悔はしていません。むしろ、この世界でたくさんの大切な人に出会えて、心から愛するオルフレット様に出会えたのですもの……あ、そうだわ」

「なんでしょうか?」

 これだけは聞いておかないと。

「彼女は……アヤちゃんは幸せに過ごせていますか?」
 
「はい。アヤ様はあのあと無事に転生されて、今は病気をすることも無く、元気に幸せに過ごされています」

(そっか……転生して元気に幸せに過ごしているんだね。ロレッテになった私も、この世界で元気に過ごしているわ)

「女神様、私をもとの世界に戻してください」

 そう女神に伝えると、アヤの体が光り始めた。

「サイトウアヤ様の幸せを、常に願っております」

 消える前にアヤの幸せを願うと、女神の声が聞こえた。

 

 ❀



 意識が浮上する前……誰かが私の額をペチペチ叩きながら、ロレッテと私の名前を呼んでいた。

「ロレッテちゃん~おーい、ロレッテちゃん~目を覚まして」

 ペチン! 

「あ、ロレッテちゃんが目を覚ました……よかった、いきなり倒れたからびっくりしたよ~君の父がソファに寝かせながら、オルフレットが眠ってしまったショックで、倒れたと言っていたけどぉ、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ」
「そっかぁ、よかった」

 流暢に人の言葉を話す、モコモコの子犬君。
 うちの庭に、遊びに来ていた子犬君。
 今はオルフレット様が飼いはじめた子犬……

「……シルベスター君だよね?」
「そうだよ~シルベスターだよ」

 可愛い瞳をロレッテに向けた。
< 64 / 80 >

この作品をシェア

pagetop