嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

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「シルベスター君……あなたは人の言葉を話せるのね?」
 
「うん、そうだよ~。少し前に弟弟子がね、ロレッテちゃんに嫌われたって泣いていたから、手を貸したんだ。僕は2人が仲良しが1番好きだから」

 シルベスター君……落ち込んだロレッテを慰めてくれた可愛い子犬。もう、オルフレット様の心の声を聞き――神、女神と会い。自分が間違え転生だとか色んなことがあったせいか。シルベスター君が言葉を話しても普通に感じてしまう。

(見た目も可愛いから……これはありだわ)

「どうしたの?」

 コテンと首らを傾げた。
 
 可愛い……だけど、悠長なことをしている場合じゃない。女神に貰ったスキルを使い、すぐにでも解毒草を探しに向かわないと。

「シルベスター君、私行かないといけないわ」

 ロレッテはソファから降りて、オルフレット様の執務机のメモ用紙に【眠っているあいだ――神様にオルフレット様を治す薬のありかを聞きました。お父様、私はその薬を探す旅に出ます、見つけたらすぐに戻りますので探さないでください】

 今、対応に追われているだろう、お父様に置き手紙を残した。

 

 薬草の図鑑を借り、王城の書庫に向かい地図と魔法に関する本を探す。本を探す間もシルベスター君は足元をトテトテ付いてくる。

「ロレッテちゃん、それは魔法の本?」

「ええ、私にも魔法が使えるはずなのですが……魔法を使ったことがないので、使い方がわからないんです」

 書庫でみつけた魔法の本をめくる。
 本来魔法はイメージをし詠唱して自然に宿る力――マナを貸してもらい、己のマナと掛け合わせて魔法が発動する。精霊に力を借りる場合もあると書いてあった。
 
(魔法って自分だけの魔力だではなく、自然の力と精霊の力を借りて、始めて魔法が発動するのか……)

「でも、マナ? 精霊? 難しいわ」

「うーん。それについてはあまり深く考えなくていいよ。魔法は思い描いたイメージでいいんだ」

「思い描いたイメージ?」

「ロレッテちゃんの魔力量はかなり多めだから、はじめに、色んなものがしまえる【収納箱】を唱えてみて」

 シルベスター君が言った通り「[収納箱]」と唱えると。ロレッテの目の前に四角い画面が現れた。

「ロレッテちゃん、その画面に入れたいものをかざして」
「画面にかざす?」

 シルベスター君の言う通り本をかざすと、手元の本が消えて、目の前の画面に本が表示された。

「それで、しまった本を出すときは、どうするの?」
「本を出したいときは、画面の本を触ってみて」

「本を触るのですか? わかったわ」
 
 恐る、恐る指を伸ばしてロレッテが画面に触れると。
 目の前に、収納されていた本がパッと現れた。

「その画面いっぱいに、物がしまえると思うよ」

「この画面いっぱい……」

 ロレッテは厨房に移動して、水とすぐに食べれそうな食料をしまい。オルフレット様の部屋に向かい「お借りします」と、クローゼットから彼の大きなシャツとスラックスを取り出して着替え、何枚か【収納箱】にしまった。

(まだ収納箱のスペースが空いている、オルフレット様の私物が欲しい……)

 クローゼットの中でみつけた、彼のハンカチをソッとしまった。

(なんだか、悪いことをしてしまっている気分だわ)
 
「ねぇロレッテちゃん、このマクラもしまったら」

 シルベスター君は隣のオルフレット様の寝室から、彼のマクラを咥えて持ってきた。

「オルフレット様のマクラ?

「だって、ロレッテちゃんは。オルフレットのマクラが好きでしょ?」 
 
「⁉︎」

(どうして? 私がオルフレット様のマクラを好きだと知っているの?)

「マクラはいらない?」
「……マクラ、欲しいです。ありがとう」

 ロレッテはオルフレット様のマクラを【収納箱】にしまった。
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