嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。
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「魔女?」
「そそ、ここは魔女の庭園。だから変わった花が咲いていたでしょう? 今回、庭園に咲くデーアラルムの花を探す為、特別に庭園に入れてもらったの。あの花をとると、次に咲くのは約1年後」
1年後⁉︎
「へぇ、そうだったのですね」
「ウンウン! 師匠、アルカ師匠! ボク、言われた通り頑張ったよ!」
いきなり空に向けて叫ぶシルベスター君。
この声に反応する様に、どこからか女性の声が聞こえた。
「シルベスターよく頑張ったね。その花で解毒薬を作らなくてはね。転移魔法で王城まで転送してきなさい。夜が来ると、シルベスターはそこから出れなくなってしまうから」
「おーっと、そうだった。すぐ、ロレッテちゃんと転送する」
シルベスター君はロレッテに近付き、どこから出したのかわからない小さな水晶玉をガリっと牙で噛み砕く。すると足元に魔法陣が現れて、ロレッテとシルベスター君をどこかの部屋へと転送した。
「ロレッテちゃん、王城の師匠の部屋に到着! もうすぐ、ここに師匠が来るから待っていよう」
「は、はい」
(嘘みたいに一瞬で、帰ってこれたわ)
「フフ、ロレッテちゃん、驚いているね。ねぇすごいでしょ……でも、ボクは転送球を一つしか持っていなかったから、山までの移動に時間がかかっちゃって、ごめんね」
転移球? またわけなわからない言葉と、耳をシュンと垂らした、シルベスター君に首を振る。
「ううん。シルベスター君が一緒に行ってくれて、助かったし心強かったわ」
「それならよかった! そこのソファに座って待ってよ」
部屋のソファに座り、シルベスター君の師匠が来るのを待つことにした。
しばらくして"コンコンコン"と扉をノックする音に、返事を返すと扉が開き。頭からフードを被った、黒いローブ姿の女性が入ってきた。
「待たせたね。わたしの名前はアルカと言います。一応、ウルラート国のお抱え専門医です」
やって来た女性はアルカと名乗り、頭を下げながらローブのフードを取った。黒いショートの髪と優しげな琥珀色の目の女性。ロレッテはソファから立ち上がり、いまはドレス姿ではないから、胸に手を当て頭を下げた。
「コローネル公爵家の娘ロレッテ・コローネルです。よろしくお願いします、アルカ様」
「いやロレッテ様、わたしの様な者に様は要りません。ただの、しがない魔女です、アルカと呼び捨てで呼んでください」
そう言われても。――前の記憶のせいなのか、見るからに年上の方を、呼び捨てにできなくなっていた。
「では、アルカさんと呼ばせていただきますわ」
「……ロレッテ様の、お好きなようにお呼びください。では、さっそく調合室へ移動して、解毒薬を作りましょう」
❀
アルカの案内で王城の奥にある、調合室へと移動した。なかには人が居らず、独特な薬品の香りがした。
(この部屋には初めて入ったわ。確か、選ばれた、錬金術師が使っているのよね)
この部屋のことは、オルフレット様の執務の手伝いの時に知った。他の国から輸入する薬草は値が張る。――しかし、ケガ、風邪、頭痛などの病気を治す薬が必要。国民を守るための必要経費だと。お金に糸目はつけないと陛下から言われているとも言っていた。
「ロレッテ様この乳鉢と乳棒で、いま採ってきたデーアラルム薬草の花びらを、すり潰してください」
「は、はい」
アルカさんは「よろしくね」とロレッテに乳鉢と乳棒を渡した。どうやらロレッテがデーアラルム草を潰すようだ。
収納箱から採取したデーアラルムの透明な花びらを取り出して、ロレッテは近くのテーブルでゴリゴリ、乳鉢で粉砕すると真っ白な粉が出来上がった。
「ロレッテ様、上出来です。こちらで解毒薬の下準備が終わりましたので、後はわたしがやります」
「はい、お願いします」
これで、解毒薬が完成する。
(薬が出来上がったら――オルフレット様とみんなが目を覚ますのね。はやく、はやく、オルフレット様に会いたいわ)