嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。
8
〈メアリス嬢、君はボクの幸せの時間を壊すのか!〉
殿下の苛立ちを含んだ、声を初めて聞いた。
「失礼します。オルフレット殿下、申し訳ありません」
メアリスさんの後を追ってやって来たのは、オルフレット殿下の側近カウサ様と、騎士が3名。その彼らの両手には包装された箱と紙袋を抱えていた。
〈クッ、なんだあの荷物の量は? ……またか、父上か兄上のどちらかが、彼女に金銭を渡したのだな……頭が痛い〉
(いまなんておっしゃったの? 国王陛下と、ルルーク王太子殿下が彼女にお金を渡した?)
訪れたメアリスさんは悪びれた様子もなく、手で自分を仰ぎ。
「あー暑い、たくさん王都の中を歩いたら喉が乾いちゃった。そこのあなた、わたしに冷たいお茶をちょうだい。それでね、オルフレット聞いてよ」
彼女はこの場の雰囲気を悪くし、お構いもなしにオルフレット殿下を呼び捨てにして、側にいるメイドに冷たいお茶を要求した。
「彼女にお茶はいれなくていい。メアリス嬢にはボクが婚約者とお茶をしているところが、見えないのかい?」
「ちゃんと見えているわよ。ただ2人でお茶していただけでしょう? わたしも混ぜてよ」
そう切り返すと彼女は笑って、ロレッテたちが座って居るテーブル席に腰を下ろした。彼女の淑女らしからぬ行動と言語。いくら学園内だからといって男爵令嬢のメアリスさんは、オルフレット殿下をご自分の友達か何かと勘違いしている。
仮にも彼は、ウルラート国の第二王子だ。
彼女の態度の悪さに、表情が変わったロレッテを見て。
「なに、なに? 悪役令嬢さん怖い顔しちゃって。あー、またわたしに何かするき? 怖い、怖い」
メアリスさんは「やれるものなら、やりなさい」と、ロレッテを挑発した。
――そんな見え見えな、挑発には乗りません。
しかし、この場にロレッテがいると彼女はますます調子に乗るだろう。せっかくの2人きりのお茶会だけど、ロレッテは切り上げて帰ることにした。
「すみません、オルフレット殿下。私、帰る時間が来ましたのでこれで失礼しますわ」
テーブル席を立つと、オルフレット殿下の瞳が悲しげに揺れた。
〈え、ロレッテ、もう帰ってしまうのか?〉
(……! オルフレット殿下そんな悲しげな声を出さないでください)
〈まだ、過ごしたりない〉
――私だって後ろ髪を引かれています。……恥ずかしいですが仕方がありません。
「オルフレット様、明日も午前しか授業がありません。もしよかったらですが。明日の午後、我が家の庭でお茶をしませんか?」
このロレッテの誘いに、オルフレット殿下の切れ長な瞳が開く。
〈いまロレッテが僕を呼んでくれた。……それだけではなく公爵家の庭でお茶の誘いまで? とても嬉しい!〉
オルフレット殿下は心の中で叫び、勢いよく立つと、早足でこちらまで来て、ロレッテの両手をとった。
「ほんとかい? 明日の午後、僕が公爵家に伺ってもいいのかい?」
「は、はい、オルフレット様がお忙しくなかったらですけど」
「大丈夫だ! 明日は必ず、お茶に伺わせてもらおう」
手を握り。
〈ロレッテへのお土産は何にするかな? 苺を使ったお菓子、いや、新鮮な苺を持っていこう!〉
そしてオルフレット殿下は人目も気にせず、力強くロレッテを抱きしめた。
(きゃっ!)
〈ああ、嬉しすぎる。そうだ、今すぐに城に戻って書類を終わらせなくては!〉
「オルフレット様?」
「あ、ああ……」
〈し、しまった……嬉しさのあまり我を忘れてロレッテを抱きしめてしまった。だが、いい香りで柔らかい……さらさらな髪、僕を見つめる優しげな瞳、ふっくらした唇に触りたい〉
(オ、オルフレット殿下……人が見ております! もう少し、心の声を抑えてくださいませぇ!)
嬉しさを爆発させたのか、オルフレット殿下の心の声に翻弄され、しばらく抱きしめられた。程なくして離れていく、そのとき見えたオルフレット殿下の頬は赤みをさしていた。
〈気持ちよかった! 満足だ、ロレッテをしかと充電した〉
「すまないロレッテ嬢。用事ができてしまった失礼する」
「え、はい――ごきげんよう、オルフレット様」
「カウサ、後は任せた」
「かしこまりました」
オルフレット殿下は心も体も満足して、王城へと戻っていかれた。
❀
(さてと、私も屋敷に戻りましょう。オルフレット殿下の好きなお茶の用意と、お好きなバタークッキーを用意しなくてわ)
屋敷に帰ろうとした私を、あざ笑う笑う声がした。
まだテーブル席に腰掛けたままの、メアリスさんはにやけた顔を隠さずロレッテを茶化した。
「やだ、やだ、ムッチムチの体を使って、オルフレットに取り入っちゃってさ」
オルフレット殿下が居なくなった途端、メアリスさんの態度はさらに悪へと変わる。
「でかい胸さえあれば、男が落ちるとでも思っているの?」
「胸? メアリスさん口が悪いですわ。それに、私は取り入ってなどしておりません。オルフレット様は私の婚約者です、あなたとは違います」
「ははっ、そんなの今だけだって! すぐにオルフレットも婚約の座も、わたしの物になっちゃうけどね。せいぜい今だけ、いちゃいちゃしなよ悪役令嬢さん」
メアリスさんは「あははっ」と笑い。テーブル席から降りて、荷物を持った騎士達を連れて帰っていった。
(婚約の座が、メアリスさんの物に?)
それは容易なことではない。それなのに、彼女はさも自信ありげに話す。どうして彼女が強気に入れるのか、ロレッテには分からなかった。
殿下の苛立ちを含んだ、声を初めて聞いた。
「失礼します。オルフレット殿下、申し訳ありません」
メアリスさんの後を追ってやって来たのは、オルフレット殿下の側近カウサ様と、騎士が3名。その彼らの両手には包装された箱と紙袋を抱えていた。
〈クッ、なんだあの荷物の量は? ……またか、父上か兄上のどちらかが、彼女に金銭を渡したのだな……頭が痛い〉
(いまなんておっしゃったの? 国王陛下と、ルルーク王太子殿下が彼女にお金を渡した?)
訪れたメアリスさんは悪びれた様子もなく、手で自分を仰ぎ。
「あー暑い、たくさん王都の中を歩いたら喉が乾いちゃった。そこのあなた、わたしに冷たいお茶をちょうだい。それでね、オルフレット聞いてよ」
彼女はこの場の雰囲気を悪くし、お構いもなしにオルフレット殿下を呼び捨てにして、側にいるメイドに冷たいお茶を要求した。
「彼女にお茶はいれなくていい。メアリス嬢にはボクが婚約者とお茶をしているところが、見えないのかい?」
「ちゃんと見えているわよ。ただ2人でお茶していただけでしょう? わたしも混ぜてよ」
そう切り返すと彼女は笑って、ロレッテたちが座って居るテーブル席に腰を下ろした。彼女の淑女らしからぬ行動と言語。いくら学園内だからといって男爵令嬢のメアリスさんは、オルフレット殿下をご自分の友達か何かと勘違いしている。
仮にも彼は、ウルラート国の第二王子だ。
彼女の態度の悪さに、表情が変わったロレッテを見て。
「なに、なに? 悪役令嬢さん怖い顔しちゃって。あー、またわたしに何かするき? 怖い、怖い」
メアリスさんは「やれるものなら、やりなさい」と、ロレッテを挑発した。
――そんな見え見えな、挑発には乗りません。
しかし、この場にロレッテがいると彼女はますます調子に乗るだろう。せっかくの2人きりのお茶会だけど、ロレッテは切り上げて帰ることにした。
「すみません、オルフレット殿下。私、帰る時間が来ましたのでこれで失礼しますわ」
テーブル席を立つと、オルフレット殿下の瞳が悲しげに揺れた。
〈え、ロレッテ、もう帰ってしまうのか?〉
(……! オルフレット殿下そんな悲しげな声を出さないでください)
〈まだ、過ごしたりない〉
――私だって後ろ髪を引かれています。……恥ずかしいですが仕方がありません。
「オルフレット様、明日も午前しか授業がありません。もしよかったらですが。明日の午後、我が家の庭でお茶をしませんか?」
このロレッテの誘いに、オルフレット殿下の切れ長な瞳が開く。
〈いまロレッテが僕を呼んでくれた。……それだけではなく公爵家の庭でお茶の誘いまで? とても嬉しい!〉
オルフレット殿下は心の中で叫び、勢いよく立つと、早足でこちらまで来て、ロレッテの両手をとった。
「ほんとかい? 明日の午後、僕が公爵家に伺ってもいいのかい?」
「は、はい、オルフレット様がお忙しくなかったらですけど」
「大丈夫だ! 明日は必ず、お茶に伺わせてもらおう」
手を握り。
〈ロレッテへのお土産は何にするかな? 苺を使ったお菓子、いや、新鮮な苺を持っていこう!〉
そしてオルフレット殿下は人目も気にせず、力強くロレッテを抱きしめた。
(きゃっ!)
〈ああ、嬉しすぎる。そうだ、今すぐに城に戻って書類を終わらせなくては!〉
「オルフレット様?」
「あ、ああ……」
〈し、しまった……嬉しさのあまり我を忘れてロレッテを抱きしめてしまった。だが、いい香りで柔らかい……さらさらな髪、僕を見つめる優しげな瞳、ふっくらした唇に触りたい〉
(オ、オルフレット殿下……人が見ております! もう少し、心の声を抑えてくださいませぇ!)
嬉しさを爆発させたのか、オルフレット殿下の心の声に翻弄され、しばらく抱きしめられた。程なくして離れていく、そのとき見えたオルフレット殿下の頬は赤みをさしていた。
〈気持ちよかった! 満足だ、ロレッテをしかと充電した〉
「すまないロレッテ嬢。用事ができてしまった失礼する」
「え、はい――ごきげんよう、オルフレット様」
「カウサ、後は任せた」
「かしこまりました」
オルフレット殿下は心も体も満足して、王城へと戻っていかれた。
❀
(さてと、私も屋敷に戻りましょう。オルフレット殿下の好きなお茶の用意と、お好きなバタークッキーを用意しなくてわ)
屋敷に帰ろうとした私を、あざ笑う笑う声がした。
まだテーブル席に腰掛けたままの、メアリスさんはにやけた顔を隠さずロレッテを茶化した。
「やだ、やだ、ムッチムチの体を使って、オルフレットに取り入っちゃってさ」
オルフレット殿下が居なくなった途端、メアリスさんの態度はさらに悪へと変わる。
「でかい胸さえあれば、男が落ちるとでも思っているの?」
「胸? メアリスさん口が悪いですわ。それに、私は取り入ってなどしておりません。オルフレット様は私の婚約者です、あなたとは違います」
「ははっ、そんなの今だけだって! すぐにオルフレットも婚約の座も、わたしの物になっちゃうけどね。せいぜい今だけ、いちゃいちゃしなよ悪役令嬢さん」
メアリスさんは「あははっ」と笑い。テーブル席から降りて、荷物を持った騎士達を連れて帰っていった。
(婚約の座が、メアリスさんの物に?)
それは容易なことではない。それなのに、彼女はさも自信ありげに話す。どうして彼女が強気に入れるのか、ロレッテには分からなかった。