世界の果てで、君との堕落恋愛。
それからわたしは病室に涼太くんを残して、お母さんの背中を優しく押しながら廊下に出た。


「……っう、ぁあ…〜〜ひぅ。ごめんね涼香、お母さんばかり泣いて……っ。本当にごめんなさいっ」

「お、お母さん……謝らなくていいんだよ。わたしは、大丈夫だから……」


外の空気を吸うために、わたしたちは病院の屋上へ向かう。

エレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押した。

お母さんはまだ肩を小さく震わせながら泣いている。


いつまで続くのか分からない心労がわたしに重くのしかかって、地面に広がる深い深い泥沼に、いとも簡単に足元を掬われる。


そんな日々を、涼太が小児がんだと診断された時から今日まで過ごしてきた。

たった1人の大切な弟を、重い病で亡くしてしまうかもしれないという計り知れない恐怖。

心に深く植え付けられた恐怖心は、お母さんもお父さんも同じようにして持っている。

苦しいのは、わたしだけじゃないんだ。

涼太くんに関わる人みんな、そんな思いを抱えながら生きている。


最上階にたどり着き、エレベーターから降りて階段を上る。お母さんの歩幅に合わせながら上っていると、いつの間にかシルバー色の寂れたドアの前に来ていた。

この扉を開けたらきっと、今よりも少しだけ呼吸がしやすくなる。


新鮮な酸素を求める一心で、わたしはドアノブに手をかけた。その先に、呼吸が止まるくらい圧巻で美しい世界が広がっているとも知らずに───。
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