【短編集】異世界恋愛 (by降矢)
 ユーリは既に了承を得ていた。その努力で(もっ)て父を納得させていたのだ。強さは勿論、その品格にも磨きをかけて。エスコート一つ取ってみてもその努力は(うかが)い知れた。

 けれど、それでも変わらず苦手意識はあるようで。

「凱旋パーティか……」

 魔王討伐を祝して宮殿で舞踏会が開かれることに。勇者であるユーリは勿論、その妻となったエレノアにも参加が求められた。

 ユーリは鬱屈とした表情を浮かべて深い溜息をついた。大なり小なり何かしらな失敗する未来を想像して滅入っているのだろう。

「不得手なのはダンスかしら?」

「いえ。ダンスは問題ないんですけど。ただ、その他がちょっと……」

「ふふっ、それではここは持ちつ持たれつといきましょうか」

「というと?」

「わたくしはダンスが不得手です。一方で、マナーや立ち振る舞いには一定の心得があります。なので、ダンスの際には貴方が、その他の場面ではわたくしが貴方をフォローする、というのはいかがかしら?」

 ユーリの表情が(ほころ)ぶ。安心したのだろう。照れ臭そうに頬を掻きながら小さく会釈する。

「助かります」

「交渉成立ね」

 互いに不足している部分を補い合う。その充足感は想像していたよりも深く、広くエレノアの心を満たした。

「あっ……!」


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