天才外科医は激甘愛で手放さない~絶対に俺の妻にする~

 この深みのある声も、聞き覚えがある。

 瀬七さんのフルネームを知らなかった。彼にも私の苗字を伝えていない。

 まさかこんな場所で、知ることになるとは。

 頭が混乱して思わず尋ねてしまいそうになるけれど、すぐに冷静になる。

 私は瀬七さんから逃げたのよ。そして、黙って栄斗を産んでいる。

 「は、じめまして。頑張りますね」

 マスクの下でぎこちなく笑うと、瀬七さんは私の目をじっと見つめてきた。

 息を止め、彼の目を見返す。

 もしかして……気づかれた? 

 彼との距離は十センチ足らずなのだから、マスクで目しか見えなくとも、気づくのかもしれない。

 すると、しばし私の顔を見つめていた彼はほんの少し目を薄め、笑いかけてきた。

 「もしかして慣れない相手で緊張しているのか? いつも通りで大丈夫だから、力を抜いて」

 「は、はい。失礼しました」

 私がこくこくと頷くと、彼はくすりと笑い、集まってきた他の外科医と軽い打ち合わせを始める。

 瀬七さんがまったく気づいていないようで、ほっと胸を撫でおろした。

 離れた位置とはいえ、彼の体温を近くに感じて頬が熱くなる。

 もう一生会うこともないと思っていた彼が今、隣にいるなんて。
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