天才外科医は激甘愛で手放さない~絶対に俺の妻にする~
それから予定通りの時刻に手術が始まった。
正直隣にいる瀬七さんが気になるけれど、今は目の前の患者さんの命を助けるのが最優先といい聞かす。
オペに集中し、瀬七さんの指示通り器械を渡していく。
「コッヘルを頼む」
「はい」
次から次へと指示が飛ぶ。時々、何も言われず手だけを出される。
難易度の高い手術であるというのに、瀬七さんはとにかく手の動きが早く、無駄がない。
しかし慎重になる箇所は、今まで見てきた医師の誰よりも時間をかけていた。
ポイントをしっかり抑えた、メリハリのある手術。
さらに嘘のように出血量が少なく、名医の技なんだと感心してしまう。
「君、機転が利くんだな」
「え?」
ふいに声を掛けられ、瀬七さんの横顔を見る。
あれ、この言葉、前にも聞いたことがあるような……。
「とてもやりやすい。この調子で頼むよ」
手元に視線を向けながら、彼は生き生きとした声色で伝えてくれる。
すべてが過去と重なる。
彼はまったく、同じ言葉を私にかけてくれたことがあるのだ。
無意識で言っているのは分かっているけれど、
もう一度そう私に対して思ってくれたのが、涙がこみ上げるほどうれしかった。
「ありがとうございます。西堂先生」