天才外科医は激甘愛で手放さない~絶対に俺の妻にする~
「えっ、ということは……そういう繋がり?」
「かなって。西堂先生結婚してないみたいだし。院長もいいお年だし、ひとり娘と結婚させて西堂先生に跡を継いでほしいんじゃないかなって、言ってましたよ」
聞こえてくる星宮ちゃんの噂話に、心臓が不穏な音を立てる。
院長の娘の霧島恵さんは、うちの病院で医療事務員として働いているので何度か目にしたことがあった。
栗色の巻髪がよく似合う、お人形のように可愛らしい人だ。
瀬七さんは結婚していない? 院長の娘と結婚……?
頭が混乱して、思わず額を押えてしまう。
「ひかり先輩は、ほんとぉに西堂先生とお知り合いじゃないんですか?」
突然話を振られて、ドキンッと鼓動が跳ね上がった。
昨日手術室で彼に腕をとられたところを、みんなに目撃されてしまっているので、私まで噂の中の登場人物になっている。
「いっ、いや、本当に違う。先生が間違えているだけ」
「うそ~! あの様子、そうには見えなかったなー!」
「だから違うって……!」
嘘をついて申し訳ないと思いつつも、この場は全力で否定する。
瀬七さんには瀬七さんの生活があるし、私は私で今の生活を崩すつもりはない。
仕事で関わるのは仕方ないけれど、それ以外で接触をしないに越したことはないだろう。
もちろん妊娠した責任を迫ることもない。
もし栄斗の存在を伝えたとして、状況が好転する未来はなかなか想像できない。
“あのときのひかり”と、容姿も名前も一致しているとなると怪しまれるとは思うけれど、きっと否定し続けたら彼も諦めてくれる……と期待してる。
「みなさん、おはようございます。申し送り始めますよー」
いつの間にか部屋に入ってきた看護師長の声に、はっと意識を戻す。
看護師が各々散らばっていき、私の話題が広まずにほっと胸をなでおろした。
しかし頭の中は瀬七さんのことでいっぱいだ。
私の聞き間違い? たしかにあのとき、彼は結婚すると言っていたはずなのに……。
四年前――。
羽田空港発、シンガポール行きの便で、私は瀬七さんに出会った。
梅雨が過ぎ、夏本番を迎える前のからりと乾いた空気が気持ちいい、七月の下旬の頃だ。