天才外科医は激甘愛で手放さない~絶対に俺の妻にする~
 「んっ……」

 ベッドに縫い付けられてすぐ、上から降ってきた口づけを目を閉じて受け入れた。

 ああ、始まってしまう。恋が。

 一瞬心を閉じようとしたのを本能で感じ取ったのか、彼は熱い口づけを注いでくる。

 緊張で強張った体、そして凍てついた心まで溶かすようなキス。

 誤魔化していただけで、一目見たときから心を動かされていた。

 私はもう、どうしようもなく彼がほしい。

 「……辛くないか」

 「え?」

 「あの男がまだ忘れられないんじゃないのか?」

 普段きちんとセットされている黒髪が無造作になっていて、長い前髪の隙間から細まった瞳がのぞく。

 この男性(ひと)はぜんぶ気づいているのだ。

 私がすっかり虜になっているっていうことを。

 「やっぱり、イジワルな人ですね」

 泣きたい気持ちになりながら彼の首に腕を回すと、先程よりも激しく舌が絡んでくる。

 午後十時。

 シンガポールの夜は長い。
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