天才外科医は激甘愛で手放さない~絶対に俺の妻にする~
次の瞬間、心が真っ二つに割れた気がした。
やっぱり、嘘。
私にくれていた言葉も、温もりも。彼は他の人にもあげている。
なんで私、瀬七さんを信じちゃったんだろう。男の人は嘘ばかりだ。
こんなひどい気持ちになるのは、二度目。
恋なんてまっぴらごめんだと、強く思う。
瀬七さんがシャワーを浴びている間、私は大急ぎで用意を済ませ、逃げるようにして部屋を飛び出す。
シンガポールの夜は長く、美しいネオンの光が悲しみに暮れる私に、優しく寄り添ってくれた。
もう、無理はしなくていいと。
瀬七さんの連絡先は、ホテルに戻る道中で消した。消せていなかった元カレの連絡先もついでに。
予定よりもずっと早い時刻に私はホテルをチェックアウトし、空港に向かった。
不幸中の幸いだ。彼にフルネームも、帰る便の時刻も伝えていなかった。
私を探して追ってくれることをかすかに期待している時点で、馬鹿だと思う。
涙はひとつぶも零れなかったのに、飛行機の席に座って滑走路を眺めているときに、止まらなくなった。
瀬七さんに会いたい。
信じられない大嫌いな存在のはずなのに、瀬七さんがくれた優しさが心に鮮明に残っている。
全部、嘘だったのかもしれないけれど、私にとっては宝石みたいに光り輝いて、大切な記憶となって刻まれていた。