天才外科医は激甘愛で手放さない~絶対に俺の妻にする~
<今日のお友達、あかねちゃんはパパに歯を磨いてもらうよぉ~! ごしごしッ、ごしごしッ!>
ふいに教育番組の音が耳に届き、思わず動きを止めた。
振り返ると、栄斗と同い年ぐらいの女の子が父親に膝枕してもらい、嬉しそうに歯磨きをしてもらっている映像が流れていた。
父親は慣れた手つきで、小さな乳歯を丁寧に磨いていく。
急に瀬七さんの笑顔が脳裏にちらつき、思わずテレビのスイッチを切った。
『ねぇねぇ! どーしてぼくには、ぱぱがいないの?』
フラッシュバックする栄斗の声に、眉をしかめる。
『栄斗のパパとママはお友達だったから、結婚しなかったんだ。そういう家庭もあるんだよ』
『ふぅ~ん!』
栄斗は私の説明に納得した様子で、そのあとこの件に関して尋ねてくることはなかった。
思ったよりも早く、覚悟していた日が訪れた……と思った。
どうやら、他のお友達に父親がいるらしいというのを認識したらしい。
こんなちっぽけな私が、父と母の二役こなせるのかどうか。
父親しかできないような遊びをしたいと思うようになるのかとか。
瀬七さんが栄斗の父親としてそばにいてくれたら、いったいどんな風に育て、
どんなふうに声をかけてあげるのかとか……そんな、勝手な想像をしてしまうときもある。
「やめよ、考えたって無駄なのに」
私はその場から逃げ出したい衝動にかられ洗面所に向かう。
負けたくない……それは世間の幸せな家庭に対してじゃない。
弱い気持ちに流されそうになる自分に対してだ。
悔しいけれど瀬七さんの存在を忘れられる日なんて来なかった。
もう忘れるって決めたのに、こんなに忙しいのに。いつも栄斗に瀬七さんの面影を重ねる。
そして自分が確かに愛した人だと、思い出してしまう。