天才外科医は激甘愛で手放さない~絶対に俺の妻にする~
 「は、はい……」

 彼の優しさに、激しく戸惑う。

 私は、もしかして何か大きな勘違いをしていたのだろうか。

 生身の瀬七さんを前にして、どうしても彼が悪人に思えず、今度は自分自身を疑ってしまう。

 親切で明るくて、心優しい人柄。

 私の目に映る彼は、昔から何もブレていない。

 瀬七さんがペットボトルの飲みかけのコーヒーとスマホを持ち、その場に立ち上がる。

 扉に向かって歩く彼に、私は反射的に待ったをかけていた。

 「どうした?」

 「お昼、ちゃんと食べたんですか? まさかコーヒーだけ?」

 コンビニの袋も見当たらないし、私が話している最中も食べている様子はなかった。

 「ああ。終わってから適当に食おうと」

 「適当じゃだめですよ。よかったら、これ……」

 お弁当とは別に持ってきた、おにぎりをふたつ彼に渡す。

 焼いた鮭の切り身にわかめを混ぜたのと、枝豆と塩昆布を混ぜたものだ。

 仕事中は食べる時間もそこまでなかったりするので、少量で栄養価を摂るために、おにぎりも少し手間をかけて、いつも作っている。

 「ひかりが食べるものがなくなるだろ?」

 瀬七さんは受け取ってはくれたものの、少し困惑しているようだ。

 「気にしないでください。瀬七さんが倒れちゃったら、患者さんもみんな困っちゃうから」

 もう少し可愛げのある言葉をかけれたらよかったのだが、勢いで渡してみて今更照れ臭くなってしまう。

 そんな私を見て、瀬七さんはふっと乾いた笑い声をあげた。

 「……わかった。ありがとう。オペが終わったら、しっかり頂くよ」
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