紺碧の夜に見る夢は
「君は何歳? 高校生?」
「……はい、高校生です。あの、あなたは」
「僕の歳知ってなんか面白いことでもある?」
「自分は、きいたじゃないですか……」
ぼそりとつぶやくと、「まあ確かにね」と苦笑した彼は、スッと視線を逸らした。
「29」
「え……、19ですか」
「いや、29だよ。俗に言うアラサーってやつ」
いや。どう見てもこれは三十手前ではないだろう。
信じられずに目を見開くわたしの肩に手を置いた彼は、「今夜は綺麗な満月だな」と放った。
月明かりだけが差し、夜を包み込んでいる。
「また危なくなる前に帰れ。道に出るまで送ってあげるから」
「はい」
そんな返事をして、振り返ったときだった。
「……っ!」
そこには、月明かりに照らされた、青い夜が広がっていた。
ここだ、間違いない。来る時は逃げるのに夢中で気が付かなかったけれど、今ならわかる。街灯なんてない。表情をうつしてくれるのは月の光だけ。
「あった……青い、夜だ……」
路地裏に広がる青。こんな狭い場所に、わたしが求めていた夜は存在していた。
静かで、冷たくて、それでもどこか心が落ち着く夜の色。
恐怖も、不安も、すべてを掻き消すような美しい色。
言葉通り、路地裏を抜けたところまで送り届けてくれた銀髪の美人は。
「またいつか逢えるといいね……青い夜に」
どこか懐かしい表情で、微笑んだ。
出逢いはそんな────青い夜。
-END-