紺碧の夜に見る夢は
昔……ずっと昔に、一度だけ会った男の人。
曖昧な記憶の中でも、その人が周りとは圧倒的に違う雰囲気を纏っており、美人よりも美人だったということは覚えている。
もう薄れてしまった過去の記憶。
確かその日は、やけに上機嫌な母に連れられて、初めて夜の街に出た日。
甘い香水の香りが充満する場所で、あっという間に消えてしまった母を探している途中、ふいに目の前に現れたのが彼だった。
『こんなとこにくるべきじゃないでしょ。僕も君も』
どこか別の場所に連れられた後、小さいわたしの顔を確認するように覗き込まれて、かち合う瞳と瞳。
『目……青だ』
そんなわたしに、ふっ、と笑った彼は『そーだね』と呟いた。
残っているのは、たったそれだけの記憶。何の確証もない【いつか】のために、この世界を生きているだなんて。
そんなことでも、今を生きる理由になるのだろうか。