紺碧の夜に見る夢は

 視線をわたしの後ろへと流した彼は、壁に縋るような姿勢のまま「君さ」と呟く。

 胸の奥の何かを疼かせるような、低い響き。足から力が抜けそうになるのを必死に堪えて、踏みとどまる。


「は、はい……っ」

「僕がそいつらのボスだって言ったら、どーする?」

「へ……」


 にやっと口角を上げた銀髪の男は、呆然とするわたしを青い目でまっすぐに射抜く。逃すまい、という言葉が瞳を通して聞こえてくるような気がした。


「……やっ」


 喉が絞られたように苦しくて、声が出せない。カタカタと唇が震えて、身体中が冷たいもので覆われているような感覚に陥る。


(もう、終わりだ)


 青い夜なんて、探しにこなければよかった。何度後悔しても、もう遅い。

 にや、と口角を上げる彼の唇の隙間から、鋭く尖った歯が覗いた。


 喰べられてしまう────。

 恐怖に支配されなければいけないはずの心の中で、いちばんに思ったことは。



「きれい……」



 ただ、それだけだった。

 風に靡く銀髪。切長の瞳。
 スッと通った鼻筋に、薄い唇、フェイスライン。


 どのパーツも、それぞれの最上級を取り揃えたようなもので、配置も完璧。

 まるで神が何十柱も集まって、相談しながら念入りに造られたような、そんな美しいものだった。
< 8 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop