私が一番あなたの傍に…
「おはようございます、大平さん」

いつも通り同僚が挨拶をしてくれる。今日が最終日の私にはそれだけで涙が溢れそうになった。

「おはよう。今日もよろしくね」

昼間は大学に通い、夕方からカフェでバイトをするというのが当たり前になっていた。
土日も入れる日はバイトに入り、朝から晩まで働き、バイト仲間と休憩中に雑談をする。
お客さんも良い人が多くて。本当にアットホームなバイト先で。バイトに行くのが楽しかった。
こんなに素敵な職場はもう二度とないと思う。それぐらい働きやすい職場だった。

「大平さん、今日終わった後、少し時間ある?」

店長から呼び止められた。最後の日に呼び止められるなんて思ってもみなかったので、一体何があるのだろうかと身構えてしまう。

「実は今日、店を閉めた後に大平さんのお別れ会をやろうかなって思ってて。大平さんと仲が良かった二人も駆け付けで来てくれるみたいだから、良かったら大平さんの彼氏さんも呼んでくれて構わないのでどうかな?」

まさかお別れ会を計画してくれていたなんて思わなかった。
確かに蒼空と小林さんが辞める時もお別れ会をした。
でもすっかり忘れていた。それぐらい大学卒業に向けて忙しかった。

「お別れ会を用意してくださり、ありがとうございます。今、彼氏に連絡して聞いてみますね」

愁に連絡して聞いてみた。愁は何度か私を迎えに来たことがあるので、バイト先の人達とも顔馴染みだ。
全く面識がない訳ではないので、店長が気を利かせてそう言ってくれたのであろう。
すると連絡をしてすぐに返事が返ってきた。

“店長さんのお言葉に甘えて、是非お邪魔させてください。俺にとっても大切な場所だから”

愁が働いていたわけではないが、面識がある人達だ。
私が大事にしている場所と人を同じように大事に想ってくれる気持ちが私は嬉しかった。

「店長、彼氏も参加したいって返事がきました」

「了解です。それじゃバイトが終わったら帰らずに残ってね。彼氏さんにもよろしくって伝えておいて」

バイトが終わったら楽しみが待っていると思うと、今日のバイトも頑張れそうだ。

「はい。伝えておきますね」

この時間が終わってしまうのは寂しいけれど、素敵な計らいにより新しい旅路へと羽ばたいていける準備が整った。
そしてこれからはお客として時々足を運びに来ようと思う。この大切な空間がこれからも変わらずに続くことを願った。
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