私が一番あなたの傍に…
「ありがとう。いつも注文とかやってくれて…」

愁にとっては当たり前のことであったとしても、私はそれを当たり前だと思いたくない。
私自身が愁にしてもらって嬉しいと思ったことは、ちゃんと言葉にして伝えたい。自分の気持ちも相手の気持ちも大事にしたいから。

「俺がやりたくてやってることだから。幸奈にそう言ってもらえて嬉しい」

そう言ってくれた彼の笑顔がとても素敵な表情(かお)をしていた。
そんな彼を見て、私は今すぐにでも彼を抱きしめたいという衝動に駆られた。

「こちらこそそう言ってもらえて何より…です」

お互いに照れてしまい、気まずい空気が流れ始めた。
そんなタイミングで店員さんがシャンパンを運んできてくれた。まるでタイミングを見計らったかのように…。

「とりあえず、乾杯しますか。それじゃ乾杯…」

「そ、そうだね。乾杯…」

お互いのグラスを合わせて乾杯を交わしてから飲み始めた。
グラスに口を付けた瞬間、シャンパンの甘くてフルーティーな香りに鼻腔を擽られた。
そしてそのまま口の中にシャンパンを流し込み、よく味わった。味は匂いそのままの甘くてフルーティーで。泡も程良いのでとても飲みやすい。

「…美味しい」

美味しくて飲みやすいので、ついグビグビ飲んでしまいそうだ。
二年前のクリスマスも同じことを思ったっけ。懐かしさと再び同じシチュエーションに、つい笑みが零れ落ちてしまう。

「どうした?ニヤけて…」

愁が私の様子を不審に思い、怪訝そうな顔で聞いてきた。
私は愁の問いに答えた。あなたとの思い出を思い出していたんだよと伝えるために。

「二年前のクリスマスのことをふと思い出して。あの時もシャンパンを飲んだな…って」

「そういえばそうだったな。あの時、お互いに初めてシャンパンを飲んだんだっけ」

二十歳になった年だったので、まだ色んなお酒を飲んだことがなかった。
今でもまだあまり色んなお酒には挑戦していないが、あの頃よりは飲めるお酒の種類も増えたと思う。

「そういえばそうだったね。あの時飲んだシャンパンも美味しかったよね」

シャンパン自体は初めてで。味なんて大してよく分かってなかった。
今だってお酒の味はよく分かっていない。味の良し悪しより、思い出の方が大事で。
あの夜のことは一生忘れられない。これから先もずっと…。

「美味しかったな。またあの店にも行きたいな」

今度は社会人として、堂々とあのお店に行くことができる。

「そうだね。また行きたいね」

まだお店の雰囲気には緊張するであろうが、今よりはお酒の味が分かっているはず。
そうなっているといいなと心の中で願った。
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