私が一番あなたの傍に…
そう伝えると、愁が安心した表情を浮かべた。ずっと緊張していたのであろう。彼女のお家に初めて来て。慣れない環境で緊張しない人間なんていない。
私も逆の立場だったら、ずっと緊張しっぱなしだったと思う。私からしたら愁はまだ落ち着いている方だ。私よりも冷静に物事を見てくれている。

「そっか。分かった。それじゃ幸奈ん家に帰ろう」

愁は私に優しい笑みを向けてくれた。それだけで私は家に帰る緊張が解けた。

「うん。そうだね。帰ろっか。それでもう一度、親と話そう」

最初から同棲を認めてもらえるとは思っていない。何度も粘って説得するつもりでいた。
でもいざ反対されるとショックの方が大きくて。親の反応を受け入れられなかった。
でも今はもう大丈夫。また反対されても、親の気持ちを受け入れることができると思う。愁が私の気持ちも、親の気持ちも受け止めてくれたから。
私ももっと大人になりたい。好きな人に追いつきたい。もっと良い女になりたい。そう思った。

「おう。そうだな。もう一度、話そう」

覚悟を決めて、家に帰ることにした。手はずっと繋いだまま…。


           *


家に着いたので、再びインターホンを鳴らした。
鳴らしてすぐに応対してくれた。今度は父が出てくれた。

『はい…』

「お父さん。私。幸奈です」

「はい。今、開けます」

そう言ってから、父はすぐに玄関のドアを開けてくれた。
私達は、「お邪魔します…」と言ってから、家の中へと入った。
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