私が一番あなたの傍に…
「ここが俺達の新居か…」

もう新居の玄関の前まで来てしまった。
今から本当に同棲がスタートする…。

「それじゃ開けるぞ」

愁がズボンのポケットから鍵を取り出し、玄関の鍵を開錠する。
私は隣で黙って扉が開くのを待った。急に緊張感が増し、思わず目を閉じた。待っているだけなのに緊張感が強すぎて、目の前の光景を見ることができなかった。
同時に胸が高鳴り、その音が更に私の緊張感を増幅させた。おかしいな。昨日の夜まではワクワクした気持ちの方が大きかったのに、いざ新居の玄関の扉の前に立ったら、心臓が爆発しそうだ。
早く胸の高鳴りよ、落ち着いてくれ。そうなることを切に願った。

「開いたぞ。中に入ろう」

愁が玄関の扉も開けてくれた。私は愁の後に続いて、家の中へと入った。

「お邪魔します…」

もうここは今日から我が家だというのに、まだ見慣れない光景につい、人ん家にお邪魔したと錯覚してしまう。

「おいおい、幸奈。ここはお前ん家でもあるんだからな。“お邪魔します…”じゃないだろう?」

「そうだね。えっと…、ただいま?で合ってる?」

今日からこの家に住むのだから、ただいまもなんだか少し違うような…。
でもこれ以外に当てはまる言葉がない。ひとまず、この場はただいまで良しとしよう。

「おう。おかえり」

ただいまと言ったら、おかえりと言ってくれる人がいる。それが嬉しくて。思わず涙が出そうになった。

「愁もおかえり」

私がそう言うと、愁が嬉しそうな表情を浮かべた。愁も同じ気持ちなのだと知った。

「ただいま」
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