いたちごっこ

 次の日の朝。


 「どうも。初めまして。筒地です」


 お店に出勤してきたら、噂の筒地君がお母さんに挨拶をしてた。釣り上げた口角から真っ白な歯が覗き、頭の中で“キラーン”と甲高い効果音が鳴り響く。


 おー、本物の筒地君だ。雑誌で見るよりも爽やか。それに顔立ちが整っている。これで天才的な味覚と腕も持っているのか……。そりゃアチラコチラから声も掛かるわけだ。お祖母ちゃんってば、好きな芸能人にでも会ったかのようにデレデレしちゃって。お祖父ちゃんが拗ね出さないか心配だ。


 「あ、双葉ちゃん。この人が新しくうちにきた筒地君」

 「うん。よろしくね」

 「この子は私の孫で双葉ちゃん。仲良くしてやって」

 「はい。よろしくです」


 お祖母ちゃんに紹介をされて筒地君が傍に寄ってきた。ペコリと頭を下げられ、頭を下げ返す。


 近くで見ると思っていたより背が高い。首を傾けなきゃ顔が見れないし。お祖母ちゃんなんて背が小さいから三十センチくらい差がありそうだ。



 「双葉ちゃんはね、私の若い頃にソックリなの〜」

 「そうなんですか?じゃあ、双葉さんも女将さんみたいに美人になりますね」

 「んまぁ」


 ご機嫌なお祖母ちゃんに優しく微笑む筒地君。容姿を褒められたお祖母ちゃんは、照れて筒地君の背中をバシバシ叩いている。もちろん、お世辞に決まっているんだろうけど、筒地君がこの店に来た理由が『お祖母ちゃんに惚れたから』だと聞かされているだけに気になる……。

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