いたちごっこ

 「おめぇ、ちょっと店に出て双葉を手伝ってきてやれや」

 「いいのかよ」

 「構わん。こっちは手が足りてる」


 そう言うだけ言って、ノソノソと元いたコンロの方へ戻っていく祖父さん。その視線の先には新しく入った筒地の姿が。 確かに作業場の方は今のところ大丈夫そうだな。筒地がかなりいい動きをしてるから。それにお義母さんと祖母さんも通常の作業をしていて手が空いてないし。割れた煎餅の枚数も把握しておきたいのが本音だ。作り直しになるだろうから。


 「もういいッス。続きは俺がやっておくんで」

 「えー?いいんですかぁ〜?」

 「はい。向こうで掃き掃除でもして来てください」


 とにかく、これ以上負担を増やされると困るし、野菊ちゃんのところへ行って片付けを含む作業を代わる。そしたら何を勘違いしたのか、テンション高く「わーい!ありがとうございますっ」と、お礼を言いながら俺の腕に纏まとわりついてきた。


 別に悪気はないんだろうけど、あれだけ祖母さんから疑いを掛けられていただけに、すっげぇ複雑。要らぬ誤解は招きたくねぇし。しかも邪魔。だから軽く愛想だけ振って、やんわりと振り払った。


 そもそも『わーい』って何だよ。俺はお前を喜ばすためにやってんじゃねぇ。むしろ逆。怒ってんだからな。しっかり反省してくれ。つか、そんなことしてる暇があったら商品名の一つでも覚えろ。毎度毎度、客の前で同じ商品について聞き回るんじゃねぇ。仕事をナメてんのか!とキレそうになってんだから、俺も大概仕事バカだし、気性が荒い。堅物の祖父さんの血を色濃く受け継いでいる。


 「皐月さん、優しい〜」

 「そうっスか」

 「それに頼もしいですっ」


 しかし、野菊ちゃんは空気が読めないのか俺の前から動こうとしない。おべっかなんか使ってないで、早く向こうで掃き掃除でもしてくれりゃいいのに。


 「包装の仕方も上手いですね」

 「はぁ…」

 「やり方を覚えたいんで、このまま見ててもいいですか?」

 「別にいいッスけど」

 「やったぁー!」


 どっか行け。と思う俺の気持ちに気付かず、能天気に微笑む野菊ちゃん。本音を言えば怒りたいところだ。でも、それで辞められたら双葉が困るだろうしな……。二号店のこともあって従業員を増やしたいって必死こいてたし。だから我慢。

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