いたちごっこ
「筒地さんが持ってるあれ、何のお菓子ですか?」
「あぁ、筒地が新しく考えついたヤツ」
「へぇー。美味しそう」
楽しそうな二人に野菊ちゃんも興味津々な顔を向ける。筒地が差し出したのはチョコレートでコーティングされた和菓子。洋と和のコラボレーション。あいつがオリジナルで作った商品で一度食べてみて欲しいと作って持ってきた。さっき俺も食べたけど、確かにすげぇ美味うまかった。才能の差を感じて悔しくなるくらい。
「実際、美味いよ。一つ貰ってきたら?」
「いいんですかね?」
「構わねぇだろ。色んな意見を聞きたいだろうし」
行け。そして二人の邪魔をしてこい。と、企むんだから俺もかなり狡いヤツだ。
「美味しい〜」
企みどおり野菊ちゃんが筒地の元へ行く。その間も双葉は勧められるがままに食べて嬉しそうに笑ってた。まぁ、そうやって喜ぶのも無理はないけどな。あれは腹が立ってた気持ちが消えて笑顔になるくらい美味かった。親父さんが商品として売れないかなと考え出すくらい。だけど、そうやって笑わせていいのは俺だけだから。そこだけは絶対に譲れない。
「太るぞ」
「……何よ」
「仕事中にバクバク食べてんな」
「はぁ?」
だから傍に行って悪態をついてやった。本末転倒だけど、あんまヘラヘラ笑ってるから歯痒くて。別にふてこい態度を取られようと何とも思わないが、他の男に笑顔を振り撒かれるとモヤモヤする。お前は知らないだろうけど、俺は意外と独占欲が強いし、嫉妬深いんだよ。あんま調子こいてたら襲うぞ。てめぇ……と、物騒なことまで考える。
待つとは決めてるよ。けど。時々、気持ちがふらつくことがあるのも事実だ。距離を感じると余計。近づきたい衝動に駆られる。一瞬、理性が飛びそうになっては、さっさと部屋に閉じ込もっての繰り返し。
別に手を出したって誰も何も思わないだろうし、何なら双葉だってすんなり受け入れるかも知れない。だけど、大切にしてやりたいから。だからこそ、心が折れないように必死こいてんだよ、こっちは。