いたちごっこ

 「なかなか皐月君もやるだろ」


 「本当に〜。日に日にレベルアップしてるよね」


 「そりゃ協力なライバルも入ってきたし、頑張らんとなぁ」


 親父さんが横から俺の肩をバシッと叩き、機嫌が良さそうに笑う。ライバルか……。


 本当にそうだ。見てるこっちが心配になるくらい、祖母さんの筒地に対する気に入りようが半端ない。あの男の方も祖母さんの気を引きたいのか、何かと理由をつけては祖母さんに話し掛けにいってるし。今まで働いてた店を辞めた理由も祖母さんに惚れただの、曖昧なだけに油断ならない。


 仕事も出来るしなー。元々、修行を積んだ後にうちへ来たんだから出来て当たり前かも知れないけど、即戦力として扱われてて悔しい。あの普段は鬼のような双葉の祖父さんが甘々対応なのも気になる。


 「気ぃ引き締めて頑張れよ」


 「はい。もちろんです」


 「本当に頼むぞ。じゃないと祖母さんのやつ、筒地に二号店を任せようかとまで言い出してるから……」


 「は?二号店を筒地にですか?」


 親父さんから出てきた話を聞いて思わず顔面が凍りつく。おいおい。何だよ、それ。いくら腕がいいからって入って一ヶ月も経たない新人に店を任せようと思っているのか。


 そりゃ向こうは俺よりも修行を積んできたのかも知れないけどさ。八年の間ずっと店にいた身からすると、パッと出てきたやつが選ばれたみたいで複雑だ。俺がその話をしたときは「まだまだ早い」だとか「皐月君には任せられない」 だとか、スペシャル塩対応で返してたのに。いったい、どれだけ筒地を気に入ってるんだか……。随分と対応が違いすぎる。


 「どうして筒地君に任すの?皐月がいるのに」


 隣にいた双葉も表情を一変させて、どういうことかと親父さんに詰め寄る。眉を釣り上げてえらい剣幕だ。かなり怒ってる。


 「そりゃおめぇ、皐月君は本店を継ぐんだから残った方がいいだろ」


 「そんなの時がきたら交代すればいいだけの話でしょ」


 「そうは言ってもなぁ。時間をかけて作り上げる店の色ってもんがあるじゃねーか」


 「なら、お父さんかお祖父ちゃんが二号店に行きなよ」


 「バカを言うな。俺はこっちを離れられないし、祖父さんだって歳だ。それに二号店を継ぐやつだって必要だから……」


 「なら産むわよ!」


 状況を説明する親父さんの声を押し退け、双葉が我慢ならないと言いたげに叫ぶ。凄まじい剣幕で詰め寄る双葉に親父さんもタジタジ。片付けをしていた祖父さんも驚いた顔で振り返る。隣で聞いていた俺も驚きで目が点。

 そりゃ、いつかは……って考えてたよ。双葉と二人で手を取り合って、そんな幸せな日々を過ごしていけたらいいなと思ってる。でも、まだまだ先の話だと思ってただけに焦る。まずは好きになって貰うのが先だと思ってたから。


 しかし、いいのかよ。お前。そんなことを親父さんに言って。お前は知らないだろうけど、親父さんの最近の口ぐせは『孫はまだか?』なんだからな。今だって顔をよく見てみろ。すげぇ目を輝かせてんぞ。絶対に本気にしてる。

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