いたちごっこ
「おぅ。それなら何も問題はねぇな」
「でしょう。だから少しばかり待ちなさいよ」
「待つ待つ。首を長くして待ってる」
えらく機嫌のいい顔で親父さんは双葉の背中をバシバシと叩いた。双葉も双葉で自信満々な顔を浮かべて「任せなさい」と返してる。それを見た祖父さんが「これは楽しみだ」とニンマリ笑う。
おい、祖父さん。その“楽しみ”ってのは主に俺が振り回されるって意味でだろ。ホント、孫には手厳しいわ。この祖父さん。
しかし、こいつ。ちゃんとわかってんのかな。相手はいつも啀み合ってる俺だぞ。そこへ行き着くまでの行程について、しっかり理解してんのか。
そりゃ跡継ぎとして育てられた双葉からすれば不満に思うのはわかる。好きになった男と一緒になる未来を捨ててまで、店のために俺と結婚したわけだしな。それこそ将来の夢も進学も仕事も結婚も全部、双葉は自分で好きなモノを選ぶことが出来なかった。
だからこそ、いきなり現れた他の人が自分達よりも先に店を任されると思ったら複雑なんだろう。店を継ぐことへの執着はきっと誰よりもあるはずだから。だったら、それを叶える手助けをしてやりたいとは思う。だけど、後継ぎを理由に子供を持つのだけは絶対に反対だ。そこはお互いに愛情を持った結果、そうなりたい。それとも、そうやって願ってしまうのは我儘なことだろうか。
「とにかく皐月君は早く一人前なることだな」
「わかりました」
「双葉もしっかり支えてやれ」
「もちろん」
「じゃあ、今日はもう帰っていいぞ」
片付けも終わり、親父さんが話を終わらすように手のひらで作業台を叩く。明日の作業が少し残っていたが、後は祖父さんと二人でやってくれるらしい。そこはもう好意に甘えて双葉と店を出る。