いたちごっこ

 「疲れたね」

 「だな」

 「明日も早いのにごめんね」

 「あぁ」


 人一人分、距離を空けつつ、双葉と話しながら見慣れた通りを二人で歩く。外はいつも以上に夜の色が濃くて、散った桜が絨毯でも作るようにアスファルトを埋め尽くしていた。

 一緒の職場で働いて一緒の家に帰る。当たり前のことだけど、何だか不思議な気分だ。普段はバラバラに家へ帰るから、余計にそう思うのかも知れない。こんな風に並んで歩くのって何気に初だしな。いつもはもっと離れて歩いてるから。一年も夫婦をやっておいて、それってどうなんだって話だけど。


 「お祖母ちゃん、本気で筒地君に二号店を任せようと思ってるのかな?」

 「親父さんがわざわざ忠告してくるくらいだからな。本気だろ」

 「だとしたら怪しくない?」

 「何が?」

 「もしかしたら洗脳とかされてるのかも知れない」


 そう言って双葉は大真面目な顔で「怪しい……」と、筒地のことを疑い始める。


 そんな双葉に思わず吹き出す。いったい何を言うかと思えば、そんなあり得ない話。確かに二人は仲がいいけどな。さすがに騙されてるわけではないと思うぞ。そこはもう単純に、筒地が俺より上だと認められたってだけの話だ。双葉の所為でもなければ筒地の所為でもない。完全なる俺の力量不足。長年店にいようが毎日頑張っていようが、店を任すにはまだ早すぎると判断されただけの話。


 「心配しなくても祖母さんは騙されてねぇよ」

 「えー。入ったばかりの人に店を任せるって正気の沙汰だとは思えないんだけど」

 「別にそこまでおかしい話じゃないだろ。筒地は経験もあれば、腕だっていいんだし」

 「そうだけど。てっきり二号店は皐月が任されるものだと思ってたから……」


 店がある通りを抜けて住宅街。双葉は不満げに視線を落とすと「納得がいかないなー……」と、子供みたいに口を尖らせた。ため息交じりに道端の石ころまで蹴飛ばして、本当に納得できないって顔だ。きっと頭の中は祖母さんへの不満と筒地への疑問でいっぱい。傍から見たら拗ねてるようにも見える。
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