いたちごっこ
「お前、そんな二号店で働きたいのか」
「そうじゃない。私はただ、皐月のこれまでの頑張りが否定されたようで悔しいの」
「別に祖母さんは否定なんてしてねぇだろ」
「しているようなものよ。これ見よがしに贔屓をしちゃって。店に取って本当に必要なのは誰なのか、ちゃんと見てないんだから」
肩に引っ掛けた鞄の紐をギュッと握り締めて、双葉は悔しそうに眉を顰めあ。なんで、そんなに悔しそうにしているんだか。
「そこまで言うってことは、双葉は俺の作るお菓子が好きなのか」
「そりゃそうよ。だから皐月と結婚したんだし」
「ほぅ」
「たとえ同じ味でも皐月にしか出せない味ってものがあるでしょう」
試しに聞けば、双葉はあっさりと欲しかった答えを呟いた。そうか。双葉は俺の作ったお菓子が好きなのか。だったら、いいかなと思う。他が否定したって双葉が認めてくれるならそれでいい。俺の夢は双葉の隣でお菓子を作っていくことだし。それが永遠のモノになるなら別に店を継ぐのに何年掛かろうが構わない。ただ永遠にするためには跡継ぎとしての地位を確立しないとイケないから、そこは抜かされて焦っているんだけど。
「まぁ、認めて貰えるように頑張ってみるわ」
「本当に頑張って。ちゃんとサポートするから」
「おー。じゃなきゃ祖父さんまで筒地を推し出すとキツイしな」
「そうよ。お祖母ちゃんと違って頑固だし。決定権を持ってるから油断ならない」
一歩前に踏み出し、双葉は敵でも迎え撃つように勇ましく言った。祖母さんは黙らすし、祖父さんには口を挟ませない、そのために自分達はどうすればいいのか……と、首を捻って真剣に悩んでいる。
飽くまでも二号店を継ぐ未来を諦めるつもりはないらしい。夫婦としてというよりは、仕事上のパートナーとしてって感じだけど、一致団結してる。
しかし、落ち込んでたかと思ったら張り切って。ホント店のことになると人が変わったみたいになるな。普段からは想像もつかないくらい、色んな表情を俺に見せてくる。
そう言えばガキの頃の双葉はいつもこんな感じだったな。何か事がある度に一喜一憂して、コロコロと表情が変わってた。あれから十年以上は時が経ったけど、その辺あんまり変わってねぇんだな……。素直で嫌いじゃなかったんだよ。そういうとこ。むしろ結構好きだった。
最近は話すことが少なかったから知れて嬉しい。当時はよく照れてたイメージだけど、今の双葉はどんな顔をするんだろう。あの頃からそんなに顔も変わってないしなー。反応とかも同じだろうか。物凄く気になる。