いたちごっこ

夏の風



 「双葉、皐月君。すまん!状況が変わった……」


 二号店の座を守るべく動き始めてから三日後の夜。『大事な話があるから』と言って家を訪ねてきたお父さんが、イスに座るなり、しょんぼりとした顔で私達に謝ってきた。


 落ち着きなくソワソワと手を動かして、何だか物凄く申し訳なさそう。そんなお父さんを見るのなんて初めてで軽く動揺。いったい何?と首を傾げて聞いてみる。


 「実はさ、二号店を筒地に任せるって話があっただろ」

 「あぁ、お祖母ちゃんがゴリ押ししているあの話ね」

 「そう。それが本格的な話になりそうでさぁ」

 「はぁ?何それ⁉ いったい、どういうことよ!」


 突拍子もなく出てきた話に驚きいっぱいに目を見開く。不快感丸出しで傍に詰め寄れば、お父さんは言いづらそうに目を伏せ、ポツリポツリと状況を話し始めた。


 お父さんの話によると、どうやら筒地君はお祖母ちゃんの地元に住む幼なじみのお孫さんらしい。この幼なじみというのは、かなり古くからの付き合いかつ仲のいい人で、私も存在自体は知っている。


 年に一度、実家に帰るお祖母ちゃんからしてみれば、赤子の頃から知っている筒地君は親戚の子供と同様の存在らしかった。


 住んでいる場所が遠くて滅多に会うことはなかったみたいだけど、筒地君もお祖母ちゃんのことを第二の祖母のように慕ってくれていた。それもあってか筒地君は和菓子職人の道へ。才能もあって成功する。


 しかし、以前勤めていたお店ではやっかみによる嫌がらせをよく受けていたそうだ。それを聞きつけたお祖母ちゃんは居ても立っても居られず、筒地君が以前働いていたお店の方に出向き、喧嘩する勢いで筒地君をうちのお店へ引き抜いたのだとか。


 それもお祖母ちゃんは新しく作っていた二号店を筒地君に任せるつもりで呼んだものだから、筒地君もすっかりその気。それを知ったお祖父ちゃんは『勝手なことをするな』と、お祖母ちゃんを窘たしなめはしたが、特に反対はせず。皐月と筒地君で対決をして勝った方に二号店を任せると言ったみたいだ。

 それを聞いた筒地君も了承してしまい、話は勝手にそっちの方向で進みそうになっている……と、お父さんはニコリとも笑わずに私達へ言った。

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